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東郷清丸 日々の歩み【後編】

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そのままの自分ができること
東郷清丸 日々の歩み【後編】

 ミュージシャン / 活版印刷職人として活躍する東郷清丸さん。
 『2兆円』、『Q曲』など数々の作品を生み出し、そのほかにも様々な活動で楽しませてくれる東郷清丸さんに、大学生の早坂春音が生活や音楽の話をお聞きました。
 後編は、東郷清丸さんの学生時代から社会人になるまでのあゆみ、アーティストと活版印刷職人としての仕事観について、お聞きしました。

May 12, 2020       

宮城県、松島の外れに住む音楽を作る大学生、早坂春音。
自分が思うかっこいい大人、なりたい大人。大学生として、これからの未来に不安や疑問、そして期待を抱きながら、そんな大人たちと公開雑談。では、いってきます。

前編:そのままの自分ができること 東郷清丸 日々の歩み
 

連載「あなたの話を聞きたい」第3回

そのままの自分ができること
東郷清丸 日々の歩み

僕が東郷清丸さんを知ったのは2019年の11月。割と最近ですが、東郷清丸さんの音楽を聴いていると「その人にしか出せない音楽」を感じ、東郷さんご自身が好きな音楽の要素を混ぜ込んでしっかり作り込まれているところが、僕のストライクゾーンにピンポイントでハマりました。
それから音楽だけでなく、YouTubeでの「きよまる!ザ・ワールド」というチャンネルを見始めて人としても大好きになってしまいました。


 

「東郷清丸」が生まれるまで

早坂春音(以下、早坂)
前編では東郷さんのミュージシャン、Youtubeの活動におけるものづくりの考え方などをお聞きしました。高校・大学ではどんな人でしたか?

東郷清丸(以下、東郷)
高校は地元の進学校に入りました。文化祭などの行事に力を入れていて盛り上がると聞いたのでどうしても入りたくて。入学してからは生徒会長をやっていました。部活は、中学まではバスケをしていたんだけど、そこで初めて軽音楽部に入りました。

早坂
それまで音楽は全くやっていなかったんですか?

東郷
そうですね。
中三で初めてギターを手に入れて仲いい友達と同じ高校に入ってバンドをやるんですけど、もともと音楽自体が好きだったので自分の中では自然な流れでした。

早坂
高校を卒業されてから進路はどのように進まれましたか?

東郷
大学に進学するんですが結局何も学んでなくて、一応現代音楽の研究をしているゼミに入って映像とサウンドトラックの関係性についての卒論は制作しました。

そこから就活をするんですけど、やるならなるべく興味のあることをと思って印刷の会社に就職しました。

だけどスーツを着て営業するような仕事は身がはいらなくて、そのまま仕事を続けても「何もできずに生きていても楽しくない」と思ったから、何かできるようになりたくて。
ちょうど会社をやめるタイミングで「Allright」の人たちに誘ってもらい活版印刷をやるようになりました。

東郷
そこから音楽は一旦置いて、それよりも何かお金になることを身につけなければと思って、昼間は働きながら、夜間の桑沢デザイン研究所に通いはじめました。
学校自体はすごく楽しかったのですが、やっぱりバンドがやめれなくてアルバムを作ったりしていて。

早坂
それから音楽を真剣にやろうと思ったきっかけというのは?

東郷
一時期活版印刷のお仕事と学校の課題とバンドのことが全部重なって、なんでこんなに疲れているんだろうと思ったんです。
そしてある朝にふと「音楽やったほうがいいな」ってわかったんです。
音楽を人生の主な武器としてやったほうが楽しそうだし、そういうことを具体的に意識したことがなかったと思って。その後すぐ桑沢デザイン研究所をやめて、それで一個ずつどうするか考えていくかと思ってやり始めたのが「東郷清丸」としての活動ですね。
 

フラットな状態が自分を支えること

早坂
今ではミュージシャンと活版印刷職人と「二足のわらじ」で活動されていますね。

東郷
最初は僕も「二足のわらじ感」があったんです。
でも最近はどっちも一緒のような感じでやっていて、あんまり二足でやっている気がしないんですよね。

早坂
分けて考えてないんですね。

東郷
毎日の時間の過ごし方でも分かれてなくて、早めに会社来て朝に音楽を作ってそのまま印刷して、それで時間が空くとリフレッシュするからまたデスクに戻って音楽の詰め作業をして。
そんな感じでやっているので自分の中では一個のタイムラインでやっていて意外と普通なんですよね。

早坂
そういう仕事の仕方は面白そうですね。

東郷
うん。自分でも面白いなと思いながらやっています。

早坂
今僕は大学で様々な分野のデザインを学んでいるんですが、音楽をメインで活動したいと思っていて。
でも現実的なことを考えると仕事はしなきゃいけないと思うけど仕事を「ただの仕事」としてもやりたくないし、先が見えないと不安になります。

東郷
そうですよね。
でも根源的な不安っていうのは消えることはないと思っています。
「東郷清丸」としての活動も活版印刷の仕事も暮らすためのお金を稼いでいかなきゃいけないので、「ヤバイ!」っていうシーンももちろんあるんですけど、そういう時に新しいひらめきとかが出て来たり、そういう狭間でやっていますね。

早坂
この間、アルバイト先の社長に言われたことがあって「みんな正解を追い求め過ぎているから、自分が選んだ先の覚悟を持って進めば成功に近づくんじゃない?」って言われて、確かにそうだなと思いました。

今のお話を聞いていても、不安は確かにあるけどやるしかないですね。

東郷
でも不安だけどやりたい時と、不安だしやりたくない時があって。
やりたくなさがある時は断ったりするんですよ、今は。

日本的な根性論というか「ここはこうしたほうがいいんじゃないの?」みたいな常識的なのは最近無視するようにしていますね。

でも怠けるわけではなく、それを超えてワクワクするようなことがあるし、常にバランスの悪いものの上に立っているから立っていれてればOK。ちょっと危ない時があっても一個の正解につかまっていればいいわけじゃないので、いろんなバランスでやっている感です。

早坂
そういうやり方だと本当にワクワクできそうですね。
それが原動力ににもなる気がします。
 

多様性と可能性

東郷
今日僕がつけているこのネックウォーマー、自分で作ったんですけど、裁縫の経験があるとかじゃないの。「こういうものの方がいいかも」っていう感覚とただ自分が欲しいものを作っただけ。

そしてこれを売ろうとしているんだけど、多分売れます(笑)
実際に服屋さんに売っているお洋服と比べると劣っているはずなんだけど、そういうのがあんまり気にされない世の中になりつつあるというか「経験ないけどものづくりが好きなんでちょっと丁寧に作ってみました」っていうのでもちょっとは売れるっていう。

東郷
とにかくやり方が多様化していくし、思想が通っていればなんでもありになってくると思う。
そういうのに共感してくれる人がより多くなってきているし、その人たちにアクセスできるインターネットがある。アイデア次第でなんでもできると思うから、序列で考えずに今ある能力がすでに何かに生きるんじゃないかっていうことを本気で考えてみたら良いんじゃないかなって思います。

早坂
やりたいこととイメージがあれば謙虚になりすぎなくっていいってことですよね。

東郷
全然謙虚になる必要ないし、やりたいで止まっているとやりたいが溜まっていくだけなので実際やってみて「つまんなかった、やめる。」で「面白かった、これはやってみたい。」その先でもまた「こういう方向だとつまんなかったからやっぱりこっちだ。」とかできるから、とにかく一歩踏み出す。っていうのが大事ですね。
 

すでに出来ることがある それぞれの力

早坂
今の大学生や新社会人にメッセージをお願いします。

東郷
逆に今の大学生とか新社会ってどんな感じですか?

早坂
みんなこうだとは一概に言えませんが、僕だと「色々やりたいことがあって何をすればいいかわかんない」と、ふと思ったりしてしまいます。

東郷
なるほど。
僕が言えるとすれば、まず一個に絞らなくても良いと思います。やりたいことは全部やっていいと思います。僕もやりたいことは全部やろうとしているので。

東郷
基本的に若い人の方が感覚の違うレイヤーにアクセスできる能力があると思います。だから20代後半の僕の年と20代前半の人とでも違うし、高校生のアーティストとかもいてまた全然違う人たちという感じがあるから、あんまり同じ序列で考えていないんですよね。
今の大学生の子も絶対に面白い能力があるはず。「まだ未熟で」とか、お墨付きをもらえたらとか、関係なくすでに持っているはずだと思うんですよね。

あとは、それを自分で見つけ出さないと生かす道が見えてこないので、変に「自分はトレーニング不足」と思い込んだりせずに「もうすでにできることがあるはず」っていうところに立てばやれるんじゃないかなって思います。


 


東郷清丸

1991年横浜生まれ。幼少期からバスケットボールで培った身体感覚と合唱コンクールの指揮者で養ったカンのようなものをベースに16歳頃から作曲を始める。童謡からポップス/ロック/ブラックミュージック/ラップなどの音楽のみに留まらず、人の会話や虫の鳴き声や車のエンジンや換気扇の回る音にいたるまで、耳に入るもの全てに感銘を受けながら音楽表現に取り組むソングライター。演奏時は弾き語り、エレキ+リズムマシンを用いたソロ、他プレーヤーを迎えてのバンド編成など、場所にあわせて自由な形をとる。 東郷清丸オフィシャルホームページ https://kiyomarization.com/

※この取材は、2020年1月25日、1to2BLDG「BUNKASAI ”文化祭” vol.1 印刷と音楽」の際に行われました。

協力 きどころね企画
撮影 小畑琴音
タイトルデザイン 早坂春音

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