後編:イラストレーター・亀井桃インタビュー後編 譲れないを、大事に
—2020年6月のBGMカバーイラストを描いていただきました。サイトの印象が新しくなって新鮮な気持ちです。
時間がかかっちゃいましたけど、楽しく描きました。
私、宮崎夏次系さんがめちゃくちゃ好きなんですよ。漫画も全部持ってて。夏次系さんがイラストを描いているということで、BGMも知りました。夏次系さんをリスペクトしているので、まさかそのBGMでイラストを描けるんだと思って。お話をいただいてすごく嬉しい反面、納得いくものを出したいっていうのがあって。かなり構図を直してできたものがあれなんです。
2020年6月からリニューアルとなったBGMカバーイラスト。亀井桃さん描き下ろし
今となっては、私にとっては描き終えて過去の作品になっちゃっているんですが、あれをもっと超えなくちゃな、もっとできるなっていうのはあるんですけどね。
―時節柄、難しかったのでは。
テーマの話をいただいて、モチーフを入れ込んで、私の中でも勉強させてもらいながらやっている感じです。6月のモチーフの西公園も、改めて実際に見に行って、写真を撮って。カバーイラストっていうのがどういうものなのかな、って自分の中で考えたりして描きました。私がBGMを夏次系さんのカバーイラストで知ったように、私の絵でどこか引っかかってくれたらいいなとは思いますね。
大事にしている「ポップさ」
—桃さんのイラストは、かわいくて、ポップですよね。
かわいい、そうだと思います。私が得意なタッチってポップなイラストなんです。私が好きで有名なあるイラストレーターさんが展示の時に言っていた「ポップな絵の中に、1セットの寂しさが入っているんだ」という言葉を聞いた時、あぁ確かに、意図せずそれが入っている感じがあるなって。
言葉がないからこそ絵って人柄がすごく出ると思うんですね。それが私は楽なんです。やっぱり言葉で誤解されたりしたことがあったから。絵は自由だし、描いた後はどう受け取ってもらってもいいから。そういう点でもポップなイラストを描いていたい。
—絵は何で描いているんですか?
最近はもっぱらi-padになりました。元々はアナログがめちゃくちゃ好きですね。次回のBGMのイラストはアナログで描こうかなと思っています。一枚絵になると、やっぱりアナログには敵わないかな、と。
—“アナログっぽく”ではなく、アナログの線そのものの良さがありますもんね。
そうそう。鉛筆、絵の具の方が、生きている感じが出ますよね。
イラストで、行列ができた
—いつ頃から、絵を描き始めましたか?
幼稚園から。ずっとお絵描きしてる子でした。小学校の頃も、休み時間には自由帳にずっと描いていて、でも恥ずかしいから腕で隠したりして。
ゲームもすごく好きで、まさにポケモン世代で絵が描けたから、男の子が描いてくれって来て、それで女の子にひがまれて(笑)
—小学生の頃は、運動ができる子が一番人気があって、その次に絵が上手い子が人気ありますよね。
そうでしたね。自由帳に自分の考えたモンスターを描いて、それを育てるシステムを作って、みんなで遊んでたんですよね。それで私の机の前に行列ができて、自分のモンスターがどうなってるか見にきたりして、静止画なのに(笑)
それでも私はノートのページが破れるくらいまで何回も描いては消して、「今こんな感じだよ」って見せて。
—楽しそう(笑)
楽しかったなぁ。またやろうかな、静止画で(笑)
最近思うんですけど、その頃から誰かのために絵を描くのが好きだったんですよね。あの時の自由な発想が、今のバックボーンというか。基本的に小学生の頃から何にも変わっていない気がする。
桃ちゃん、良い絵を描くね
—学校の図工や美術の時間って、基本的に「こういうものを作りなさい」って決められたものを作ることが多かったですよね。その辺りはいかがでした?
中学の美術は点数低かったですね。決められたものが苦手なんですよ。作ったりすること自体は好きだったので頑張ってやるんですが、どうも中学の先生は気に食わなかったんじゃないですかね。
高校はすごくひねくれている時期で、作るものも、新聞の文字を切り抜いて作ったひねくれたコラージュとか。
—映画やドラマに出てくる脅迫状みたいな……?
そうそう、まさにそうです(笑)
そんな時、高校の美術の先生が「桃ちゃんらしくて良いね」って言ってくれたんですよ。そんな風に言われたのは初めてで、嬉しくて涙が出て、ぶるぶる震えながら帰りました。
物静かな女の先生だったんですけど、その先生が異動する時の離任式で初めて泣きましたね。
「桃ちゃんって良い絵を描くから頑張ってね」って言ってくれた。あぁ、見てくれているひとっているんだなって。それから変わったかなぁ。だから、高校時の先生にはめちゃくちゃ感謝しているな。
転機は、諦めがついたとき
—学校を卒業してから、すぐイラストのお仕事をはじめたんですか?
いえ、社会人1年目は、仙台の会社に就職してシステムエンジニアとして働き始めました。ただ、体を壊して病気になってしまい、辞めざるを得ない状況になってしまって。回復してからアパレルなどで働いたりもしたんですが、具合がずっと悪いんですよ。でも働かなきゃ、もう、何をしたらいいかわからなくて。結局また再就職してもぶり返してしまったりしていたのが、23歳くらいの時ですね。
20代前半はバンド活動に力を注いでいて、その間、絵はバンドのアートワークくらいしかやっていなかったんです。バンドが終わって、絵が仕事になりはじめたのはそのあとからかな。
—では、バンドが終わってからが転機?
病気になって、会社を辞めなくちゃいけなくなった時が大きい転機かな。踏ん切りがついたというか。「もうできないや」と諦めがついたことですかね。それで今の飲食店で働きながら、イラストも描いているかんじです。
—イラストを、お仕事として受けるに至るまでは?
それが急なんですよ。パン屋兼カフェの「するめcafe」やwebマガジン「余談Lab」などをやっている永井雄太郎さんっていう方がいるんですけど、私が働いているお店にたまにいらしてて。私が店で似顔絵とか描いたりしていたのを見て、「桃ちゃん、仕事としてやってみない?」って言ってくれて。それからウェブのコラムの挿絵なんかを描いたのがきっかけです。自分の好きなことを仕事にするということに関しては、交渉などを含めて、まだまだ成長途中なのですが、SNSなどにイラストをあげるようになってからも仕事が来るようになってきて。あとは知り合いが私を紹介してくれたり。本当に人に恵まれているんだと思います。
—ポップなだけのイラストはたくさんあるけれど、そこにプラスされた「何か」があるイラストを描ける人はそうはいない。そういう「何か」を感じ取ってくれているのでは。
それは人間性なんでしょうね。だから、人間性を成長させようと思っています。
接客業が長いんでね、人好きなんですよね。
—人を観察したいってことですか? それとも人と話したい! ということ?
割と観察する側かもしれないですね。植物を見るみたいに(笑)
人に対して、興味があるのかもしれない。割り切っちゃうひともいるじゃないですか、「あの人には興味ないからいいや」って。そういうのはなくて、「あの人今日はなんでこうなんだろうな?」とか「どうしてあの服着てるんだろうな」って観察する。道で面白い人を見つけたら、「あの人絵になるな」みたいな感じで観察する。そうすると、その人の感情とか1シーンが見えたりしますよね。だから人物画が好きですね。
地元のために、描きたい
—今後やってみたいことはありますか?
お米とお酒のパッケージのイラストとデザインをやりたいです。東北・宮城を考えた時に、地元の役に立ちたい、というのがずっとあって。昔ながらのパッケージや伝統を感じるものももちろん良いとは思うんですけど、もう少し幅広いエリアに、そして若い世代に伝わるような、伝わりやすいものにするのにイラストが役に立つかなと思って。
あと、ゆくゆくは雑誌の挿絵かな、と思っていますね。絵はずっと好きだから、辞めることはないんだろうなって思います。
本当は今年から東京に行こうかなと思っていたんですが、コロナの影響で一旦やめていて。今後どうするかまだわからないですが、場所に固執したくないですね。仙台は好きだし、やっぱり生まれた土地って大事なんだなって大人になってから思うので、何かの形では携わりたいですね。
Photo by はま田あつ美
協力:BEAGLE USED & VINTAGE
※この記事の取材・撮影は感染防止対策を徹底し行いました。
亀井桃
宮城県出身。絵を描いています。 ゲーム、漫画、好きです。 フリーのイラストレーターとして、イラスト/ロゴデザイン等幅広くお仕事しています。 https://momo-kamei-1.jimdosite.com/