「株式会社タカヤ」から学ぶ
リノベーションの可能性と新しい家の形
スタジオを見学
一番町にある「株式会社タカヤ仙台支店」のリノベーションスタジオは、リノベーションしたお部屋を実際に体感できる場所として作られている。お洒落な部屋に憧れる大学生の僕、高藤が実際に訪ねた。

このスタジオは、もともとただの空き部屋だったところに、リノベーションを施してできたそうだ。スタジオ内の各スペースで様々なテイストのお部屋の様子を見ることができ、理想のお部屋の想像が膨らませやすい。スタジオにいるだけで、自分の美的センスが養われていくように思えた。
また、壁や床に使う材質のサンプルも非常に多く取りそろえられている。実際に素材に触れることができるので、質感や光に当たったときの色の具合などが確認できる。この膨大なサンプルの中からスタッフの方と相談しながら選んでいく作業が、リノベーションにおける大きな楽しみの一つである。
リノベーションとリフォーム
私がリノベーションという言葉を聞いたとき、リフォームとどのように違うのか、同じではないのだろうか、その疑問をまず、長谷川さんに伺った。

「一般的に、リノベーションにこれといった定義はなく、会社ごとに異なります。当社では、リノベーションとはお部屋の価値を変えるもの、という定義をしています。」
間取りや部屋の使い方を変えてしまうことで、その部屋が持つ価値そのものを変えるのだという。なるほど、修繕や改修といったイメージの強いリフォームとは、また一線を画するものである。
「新しく家を建てる際に、中古のマンションを購入しリノベーションをする。こういった選択肢をする方が最近は増えていますね。そのお手伝いを当社ではさせていただいております。」
仙台のリノベーション事情
実際に仙台でリノベーションはどのくらい行われているのだろうか。
「ここ5年で明らかに増えていますね。というのも、今は新築物件がとても高くなっているんです。少し前なら3~4千万円で買えた物件も、今は5~6千万円でなければ買えない物件も増えています。」
先月の収入が8万円の大学生の私は思わずのけぞった。52年ローンである。組めるはずもない。
「であるならば、中古住宅を購入してリノベーションした方が安く済みます。今後価格が下がっていくという見込みも現段階では予想できませんし、リノベーションが増えている理由は、そういった金額的なメリットも背景にあるかと思います。」
補強工事とリノベーション
高層ビルやマンションに見られる経年劣化による建物の修繕のための補強工事。今後は仙台を含む多くの都市で増えていくとされている。では、リノベーションと補強工事は関わりを持っているのだろうか。
「これが全く別のものなんです」。長谷川さんに解説していただいた。
「補強工事というものはマンション全体で行うものなので、工事の主体は各マンションの管理組合です。ですので入居者個人が主導してできるものではありません。」
部屋の外や玄関のドアといったマンション所有のものは変更することはできない。外観はそのままに、中身のみを変える。部屋の価値は外観では決まらないというメッセージなのかもしれない。
流行のスタイル
では、どのようなお部屋にリノベーションするのが流行っているのだろうか。長谷川さんは「うーん、やはり十人十色。お客様それぞれですね」とした上で、「最近ではコンクリートむき出しの天井にして、木材とのコントラストを望まれるお客様が多いです。また、女性の方にはパステルカラーを用いた北欧風のかわいらしいデザインのお部屋が人気ですね。」と仰った。
男女問わず安定して人気なのは、やはり木や白を基調としたナチュラルなスタイルだという。
「お部屋の印象はどうしても家具で決まりますから。どんな家具の色でも似合うお部屋を望まれる方も多いですね。」
実際に素材に触れてみた
実際にリノベーションで使われている素材を見せていただく上で、事前に長谷川さんには私の理想のお部屋のイメージ図をお渡ししていたのだが、「ここまでかっこ良い系に振り切ったお部屋は珍しいです」とのこと。

そうだろうなと思った。私は将来、倉庫に住みたいと未だに本気で思っているような人間である。こんな変わり者が何人もいていいはずがない。しかし、「このインダストリアルな、ドラマに出てきそうな雰囲気のお部屋も実現できるというところがリノベーションの魅力です。注文住宅でこれをしようとするとコストが全く変わってきますから。」と長谷川さん。夢と現実の狭間で、リノベーションが私の中で輝きを放つ。
理想のお部屋のイメージに合いそうな素材を見せていただいた。
まず、床に使われる無垢材という本物の木を使用したフローリングを触ってみた。木の風合いがとても良く、最近の人気だそう。自然ななめらかさを感じられ、触り心地がとても良い。木目調のシートも触らせていただいたが、やはり比べると違う。シートの表面がつやつやしているのに対して、無垢材の方は落ち着いたマットな雰囲気。多くのマンションの床にはシートが用いられているが、それとは違う本物の木の質感が無垢材の人気の理由なのだ。
また、床や壁にタイルを貼る方もいらっしゃるとのこと。そのようなお部屋には、オールステンレスのキッチンが似合うとのことでそれも見せていただいた。

「高藤さんが選んだようなかっこ良い系のお部屋には、このようなオールステンレスのキッチンが似合いますね。ただ、収納が丸見えなので“見せる”収納ができる方が良いかなと思います(笑)。」今や家具にも人を選ぶ権利はあるのだろう。自分の家の食器棚をふと思い返してみる。不格好に積み上げられたお茶碗、飲み口が欠けた湯飲み、なぜか奇数のお箸……。私には、まだ早かったようだ。
環境問題とリノベーション
建物の建て替えに使われる莫大な費用と、その際に発生する大量のゴミの問題。リノベーションは二つのコストを抑えられる点で注目されている。加えて、現代のもう一つの社会問題を解決しうる可能性がある。空き家問題だ。
「廃墟に近いような空き家をリノベーションして古民家カフェにするなど、自分が住む以外のことに使うこともできます。また、よくあるのが、両親が亡くなった後に誰も住まなくなってしまった実家をどうするのかという問題。これをリノベーションすることで『空き家』から人が住める『家』になります。こうしてリノベーションとして手を加えることで、空き家問題解決の一助になるのではないかと期待されています。」
長谷川さんとお仕事
ここからは、長谷川さんのお仕事について伺う。
長谷川さんは青森県のご出身。お父様が設計のお仕事をされていたため、「小さい頃から家に図面がある環境にいました。」当時からインテリアなどに興味があり、不動産のチラシの間取り図を見るのが好きな幼少期だったそうだが、「父親と同じ道に進もうとは、当時は特に思わなかったです」という。
大学進学時には、子どもが好きだという理由から教育学部を選んだ。そこで1カ月の教育実習を行った結果、「あぁ、俺には教師は無理だなと(笑)。教育学部は教師になりたいという人たちが入学してくるんですけど、私は子どもが好きだという理由だけで入学したのでその辺の違いもありましたね。ですから教員の道には進まずに一般企業に就職しようと決めました。」
そこで、もともと好きだった住宅関係の仕事を選び現在に至る。雪国の出身ということで「雪国の家とそうではないところの家の違いを見るのも面白い」という。
「どんどんと新しいシステムが開発され、年々と高気密高断熱の家が増えています。」技術の進歩によって快適な家が増えている。これは素晴らしいことだ。もっと発展していってほしい。私はそう話が続くと思った。しかし、「個人的にそれは良い流れではないと思っています。」と長谷川さんは言った。それは入社後に当時の上司から言われたある印象的な言葉が影響している。
「日本の住宅は過保護すぎる。」長谷川さんはこう続けた。
「日本の昔からの建築物、例えばお寺や神社ってものすごく長持ちしますよね。今は結露を防ぐシステムとして用いられている24時間換気システムというのがあるんですけど、それって昔は隙間風があったから必要なかった。それが高気密高断熱を目指した結果、今まで必要なかった新しいシステムがどんどん必要になり、その結果、煩雑なメンテナンスの問題が発生してしまいます。ですので新しいシステムを組み入れるよりは、古来の作り方に沿った方が家は長持ちするのではないかなと思います。」
現代の技術が、必ずしもかつての技術を上回るということはない。リノベーションという新しい価値を作る仕事をしているからこそ、昔から残るものに対するリスペクトが必要なのだと感じた。
家とは
今後、家はどのようになっていくのか。長谷川さんは「既存の部屋に合わせて生活する人は減っていくでしょう」とした。
「生活スタイルの多様化がすごく進んでいるのは、このコロナ禍でより一層強く感じました。例えば、リモートワークを行う方々は書斎がほしいと思います。でも、現在の注文住宅に、書斎ってまずありませんよね。となると、どうしても既存の部屋に合わせた生活をしなくてはならない。
これからは、既存の家にお客様が合わせるのではなく、お客様の趣味嗜好や多様なライフスタイルに合わせて家を作る方向に、よりシフトしていくと思います。それを実現できる選択肢の一つにリノベーションがあると考えています。」
最後にこんな質問をしてみた。長谷川さんにとって、家とはなにか。
「うーん。仕事という面で見れば商売道具、ですかね(笑)。」冗談めかしてそう言った後、長谷川さんは少し間を開けてこう続けた。「家って、住む人がいるからこそ家になるんだと思います。住む人がいなければそれは空き家です。だからこそ、住む人の生活スタイルに合わせたお部屋を作っていく必要がありますし、そのお手伝いをするのが私たちの仕事です。」
そう語る長谷川さんの目は、人に寄り添う優しさに満ちていた。
リノべる。宮城(株式会社タカヤ)
https://www.renoveru.jp/miyagi
photo by 中田麻衣