「気軽にいつでも来てほしい」地域に寄り添い続ける美容室
地域、お客さま、スタッフ
みんなが笑顔になる美容室を目指して
人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”


東日本大震災
経営者としてできることを
―― 東日本大震災から約半年。まだガレキも片付いていない11年10月にラポールヘアの1号店をオープンさせたと伺いました。なぜこの時期にオープンを?
早瀬渉代表取締役(以下早瀬) 私は当時、東京で大手美容室グループ「モッズ・ヘア」の営業統括役員として働いていました。すぐに東北の店舗に安否確認をしましたが、全く連絡が取れない。ニュースではどんどん被害の桁が上がっていく。大変なことが起こっている、と思いました。
「これは、大きな社会問題が発生する災害だ、経営側の人間として自分は何をすべきなんだろう」と考え、経営の歴史をさかのぼると、大きな災害とその復興を機に新しい事業を展開する経営者が多いことが分かりました。経営者の使命は、社会の問題を解決することです。
私は、美容の世界で雇用を創出することで、東北を支援したいと、3月の下旬には新事業を始める決意をしました。
―― ご出身は東北ではないそうですが、宮城には来たことがあったのでしょうか?
早瀬
それが、なかったんですよ(笑)。宮城に足を踏み入れたのは、11年5月が初めてでした。1号店に石巻を選んだのは、東北最大の被災地だと言われていたからです。石巻だけで、約600人の美容師が店を流され、顧客を失っていたんです。今、経営者として何かするならここだと思いました。
美容室が
地域の情報交換の場に
―― 美容室の復興がなかなか進まない中、10月のオープン。地域の方々に感謝されたのではないでしょうか
早瀬
そうですね。お客さまの第1号は70代のおばあさまでした。オープンの2時間前から並んでくれていたんですよ。カットが終わって会計したとき、「近くにできて、良かったわあ」って、なんとも表現しがたい声で言われたのが今も印象に残っています。行きつけの美容室も閉店してしまったんでしょうね。寂しそうで、でもうれしそうで。それに、待合室が情報交換の場になっていたのも感動しました。「あんだ、生きてたの!」って。美容室を始めて良かったなぁと思いました。
低価格は、
お客さまはもちろん
経営者にもメリットが!?
―― ラポールヘアは、予約なしでも対応してくれて、低価格なのも特徴ですよね。とても利用しやすい美容室であるように感じます。取材中、思いついたように入ってきたお客さまが、ドライカットだけして、15分ほどで帰っていくところを見ました
早瀬
ラポールヘアは、経営者とスタッフ、お客さまのメリットをイコールにしたいと思っています。低価格であるというのは、一見お客さまにとってだけメリットがあるように思えますが、経営者やスタッフにとってもメリットがあるんですよ。
―― と、いうと……?
早瀬
今、日本には「潜在美容師」と呼ばれる、働いていない美容師が50万人いると言われています。多くが結婚や出産、ハードな仕事が難しくなり辞めてしまった。ラポールヘアは、そういう方たちの再就職の場でありたいと、事業を進めています。そういう方にとって、一番不安なのは「私の今の技術が通用するのだろうか」という点なんです。ブランクがあると、美容師の技術があっても、高級美容室だと面接を受けるのもちゅうちょしてしまう。低価格だと、「ここだったらやれるかもしれない」と一歩踏み出すきっかけになるんです。お客さまにとっては、安くて来店しやすい。スタッフにとっては、働くハードルが低い。経営者にとっては、人材が確保できる。ね、みんなが幸せでしょう。
―― ほんとうですね!
働くママを応援する
多様な雇用環境
―― 店舗では、さまざまな年代の方が働いているのも印象的でした
早瀬
はい、年配のスタッフが若いスタッフに子育てのアドバイスをしていたりすることもあるんですよ。ラポールヘアでは、しっかり働きたい人は、売り上げの45%を収入にできる業務委託契約。扶養範囲で働きたい人はパートというように希望する働き方によって、雇用形態も変えています。スタッフにも、ぜひ話を聞いてみてください。
―― ということで、仙台荒井店で勤務するSさんと濱辺さんにお話を伺いました。Sさんは、お子さんが1歳になったのを機に復帰されたそうですが、実際に働いてみていかがですか?
Sさん 美容師として18年働いていました。子どもが生まれて、美容師として復帰したいとは思いつつもなかなかきっかけがなかった時、近くにラポールヘアができて、思い切って応募しました。お客さまに出会える幸せをもう一度味わえて、とてもうれしいです。勤務中は、2歳になる息子をお店の託児室に預けていて、スタッフの皆さんにかわいがっていただいています。

―― ラポールヘアには、スタッフや、お客さまのお子さんを預けることができる、無料の託児室があるのも特徴ですね。近くに子どもがいる環境で働けるのは、安心ですね
Sさん はい!いつでも様子を見ることができるので、やっぱり安心です。息子は、お客さまのお子さんと遊んだりできて、いろんな子と出会えるので刺激になっているようです。働いている姿を見せられるのもいいですね。
―― ありがとうございます! 濱辺さんは今の店舗で美容師として勤務する前に、他店舗の託児室で働いていたそうですね
濱辺さん ラポールヘアで働く前は美容師をしていましたが、美容師以外の仕事をしてみたくて、託児室で働いていました。いろいろなお子さんに出会えて楽しかったですし、お母さん方にはとっても感謝されました。お子さんを心配することなく、きれいになれるんですもんね。そのうち、美容師に戻りたくなって、今のお店ができたのを機に美容師に復帰しました。2人の子どもにお金がかかる時期なので、たくさん稼ぎたいと思い、目標を持って勤務しています。みんなイキイキ働いているのがいいですね!

―― お二人とも、自分のペースで、肩に力を入れずに働いている様子が印象的です。さまざまなバックボーンをもつ女性が働きやすい職場なんですね
早瀬 そうでしょう。家族や子どもたちに、ママが働いている様子を知ってほしいと思って「ラポール通信」という社内報を出しています。家族の理解を得ながら、主体性を持ち美容師として「社会」で働くという気持ちが芽生えてくれたらいいなと思っています。
東北の課題と向き合い
地域の役に立つ
―― 今後、トライしてみたい事業はありますか?
早瀬 訪問美容です。東北は高齢化が進んでいる場所でもありますので、これからマーケットが大きくなると思います。ラポールヘアのお客さまは、50~60代の方が多いのですが、訪問美容の話をすると、「実はうちのおばあちゃんが……」という話が出てくるんですよ。スタッフも地域の住民でもあるので、「隣りの家のあの人が……」と話してくれるんです。
私はラポールヘアを通して、地方の課題となっている「雇用の創出」「地方経済の低迷」「若者の流出による過疎化」「地域コミュニティーの形成」を解決していきたいと思っています。お客さまもスタッフも、地域の住民です。それぞれの気持ちや状況に合った事業を展開していくことで、地域、そして社会の役に立つお店になりたいと思っています。
※こちらの記事は、2018年10月31日河北新報朝刊に掲載されました。
株式会社ラポールヘア・グループ
2011年7月設立、同年10月に1号店となるラポールヘア石巻店をオープン。宮城県を中心に直営店を経営する他、フランチャイズ展開し、いつも地域のそばにある美容室を目指す。18年10月現在、21店舗、グループ美容師160名。
http://www.rapporthair.com/
撮影 三塚比呂