赤ちゃんから高齢者まで福祉施設で街づくり
豊かな暮らしをすべての人に
人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”
義父の言葉が転機に
商社マン、介護の世界へ
未来企画は2011年に設立。独自の視点を取り入れた介護事業に着手し、現在は「アンダンチ」と、15年にオープンした小規模多機能ホーム*¹「福ちゃんの家」の2施設9事業を経営しています。
福井さんの前職は介護とは関わりのない商社マン。
「商社で6年半、鉄を売っていました(笑)。めちゃめちゃ面白かったですよ」
仕事に向き合い取引先とのやりとりの中にやりがいを感じつつ、学生のころからの起業への思いも持ち続けていたそう。大学時代、バックパッカーで行ったアフリカで貧困の現状を見たこともあり、国際協力系の事業に関心があったといいます。
そんな中で介護事業へ目が向いた転機のひとつは、結婚だったと福井さん。
「妻の父が医師で『医療と介護が必要な人に、一貫して良いケアができるような事業を考えてほしい』と言われました。福祉!? と初めは驚きました(笑)でも、社会的課題をビジネスでしっかり解決することにチャレンジしたいと考えていたので、宿命みたいな感じもあったし、いいチャンスをもらえたと思います」。
*¹小規模多機能ホーム/「通い」「宿泊」「訪問」といったサービスを組み合わせ、利用者に必要な支援を提供する在宅介護サービス

地域に安心をー
介護の相談役を目指して
小規模多機能ホーム「福ちゃんの家」を始める時、福井さんには目指すイメージがありました。それは、“なくてはならない地域のインフラのような事業所”。
「介護って突然必要になるじゃないですか。でもいざその時が来ても、申請方法やサービスの組み合わせ方の知識は、ほとんどの人が持ってない。そういう時『福ちゃんの家に行けば教えてくれる』ってことが地域に浸透していれば、少しは安心できますよね。そんな雰囲気を持った事業所にしようと思いました」。
福井さんたちは、町内会の行事等にも積極的に参加し、近隣住民との関係づくりに尽力。スタートして3年がたった現在では、住民参加の料理教室やワークショップといったイベントも行っています。地域の人々とのやりとりも増え、良い形になってきた今は「もう一皮むけたい」と、介護の質をさらに高めていくことに取り掛かっているそうです。
保育園、駄菓子屋、ヤギ
敷地内は小さな街
アンダンチは約3300㎡の敷地の中にさまざまな施設が入っています。医療と介護の要は、サービス付き高齢者向け住宅*2(サ高住)「アンダンチレジデンス」と、看護小規模多機能型居宅介護事業所*3「HOCカンタキ」。さらに障害者の就労支援事業や医療介護についてのよろず相談窓口「アスノバ」、スタッフの子どもたちを中心に預かる保育園、国産で健康を意識したメニューがそろうレストラン。敷地内が小さなひとつの街のような機能を持ちつつ、そのまま周辺地域へとつながっているのです。
「元々僕らは医療系事業が主なので、訪問看護が入る看護小規模多機能は必ず手掛けようと思っていたし、高齢者の住まいのニーズについても考えていました」。
*2サービス付き高齢者向け住宅/高齢者が安心して自由に暮らすことができるように設備やサービスがつけられた賃貸住宅
*3看護小規模多機能型居宅介護事業所/小規模多機能ホームの「通い」「宿泊」「訪問」に「訪問看護」「ケアマネジメント」を加え、利用者に合ったワンストップサービスを提供

一方で、今後誰もが必要になる医療や介護の予防について、地域住民が身近で学べる場も作りたかったと福井さん。
「全部をひとつの場所に組み合わせて、そこに保育園をプラスしたのがアンダンチの原形。ケア、住まい、予防を充実させ、赤ちゃんから高齢者まで、障害があってもなくても心豊かに暮らそう、という地域づくりがやりたくて」。
サ高住の入り口に設けられた駄菓子屋には近所に住む子どもたちが通ってくるし、レストランはサ高住の高齢者も地域の人々も同じように利用できます。ヤギのいる広場では、利用者と住民がごく自然に交流していました。


「高齢者施設って建物完結型が多いけど、それとは真逆のものにしたかった。イメージは昔の長屋。地域とつながりを持って暮らそう、という提案です」と話す顔は明るく生き生きとしています。


新たな試みや考え方をホームページやSNSで情報発信し、よりオープンにすることは、良い人材の確保にもつながっていると福井さん。
「僕らの考え方、やり方を知った人たちがここで働きたいと言って来てくれます。この業界はまだ盲目的というか、マニュアル通りにやりたい人たちが多いので、イノベーションを起こして少しずつ変えていく必要があるんですよ」と表情を引き締めます。
地域とともに考える
高齢化社会の未来
アンダンチがスタートして4カ月。想定外の展開も生まれています。アスノバでは、地域の人たちからの要望で手づくり品の委託販売を始めました。また、未就園児を持つ親のための育児サークルにもアンダンチ、福ちゃんの家の双方で場所の提供を始めています。
「地域の場づくりにもどんどん使ってもらいたい。地域の人たちが出入りして新しいコミュニティーができるというのは、僕らが目指すところ」。第二のアンダンチを作る計画は、と聞くと福井さんは首を横に振ります。
「まずはここの機能をもっと充実させて地域を掘り下げたい。今は障害児に対応するものがないので『放課後等デイサービス』も考えています。いろんな人がアプローチできるサービスを作ることは、スタッフのキャリアアップにも対応できますし」。
アンダンチへはオープン以来県内外から300人以上が視察に訪れています。
「各地域でニーズにあったものを組み合わせていけば、真似できると思いますよっていつも言っています」。
屈託のない笑顔で話す福井さん。そうした地域が増えていけば高齢化社会の未来は明るいはず。これからも株式会社未来企画にご注目を!
アンダンチのスタッフさんに
話を聞きました
森田実可子さん/保育士
前職は保育とは関係のない会社で仕事も事務でした。入社のきっかけは、保育士の専門学校でお世話になった先生が未来企画の介護部長になったご縁で声をかけてもらったことです。ただ、資格はあったものの現場から長く離れていたこともあって、当初は保育士として働く勇気は正直ありませんでした。でも話を聞くうちに、面白そうだなと感じてきたんです。地域とつながりを作ること、介護と保育と飲食と障害者就労支援が同じ敷地内にあること、子どもたちが高齢者と遊ぶ機会があると等々、聞けば聞くほど普通の保育園じゃないなと。このコンセプトの中で私も一員として働きたい、と思いました。
今はまだ手探りの部分もありますが、社長、部長とも直接相談ができるので、のびのび働けています。高齢者と触れ合う機会が多い子どもたちのために、私たち保育士も認知症や介護について知識が身に付くような研修を開きたいと考えて、計画しているところです。
高橋沙保香さん/介護福祉士
今年4月に入社して3カ月「福ちゃんの家」で勤務してから、オープンとともにアンダンチに来ました。ここのことを初めて聞いた時は、とても興味を持ちましたね。多世代交流や地域の方々と触れ合えるというところに、なんだか介護っぽくないな、と惹かれました。実際に働き始めてみても、サ高住の中の駄菓子屋に遊びに来た近所の子どもたちと、入居者さんとのやりとりがとてもいい雰囲気だと感じています。共有スペースに置かれている昔の道具をきっかけに会話が始まったり、逆に子どもたちが手にしている新しいものに入居者さんが興味を示したり。そういう交流を身近でできるというのは、どちらにとってもいいんじゃないかなと思います。
個人的な目標としては、これから入居者さんもどんどん増えてくるので、お一人お一人に合った介護、接し方をしっかり身に付けていきたいですね。
※こちらの記事は、2018年11月30日河北新報朝刊に掲載されました。
株式会社未来企画
2011年設立。小規模多機能ホーム、メディカルサポート、介護関連研修事業などを行う。医療支援・介護・福祉関連の包括的事業を通し、社会的課題解決に取り組む。 https://andanchi.jp/
撮影 三塚比呂