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ー私ひとりの力ではなくて、
私の世界観を深く掘り下げてくれた
藤崎の皆さんのおかげです。

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イラストレーター 松下さちこ
ー私ひとりの力ではなくて、
私の世界観を深く掘り下げてくれた
藤崎の皆さんのおかげです。

2017年のクリスマスを彩った、宮城の老舗百貨店 藤崎のディスプレー。
今までの藤崎のイメージを一新させるような独特な世界観を生み出したのが、在仙のイラストレーター・松下さちこさん。老舗百貨店とともにひとつの作品を創り上げるその胸の内にはどんな思いがあったのか。この記事は、ぜひあのクリスマスディスプレーを思い出しながら読んでほしい。

Jan 31, 2018

私ひとりの力ではなくて、
私の世界観を深く掘り下げてくれた
藤崎の皆さんのおかげです。

藤崎のクリスマスディスプレー

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インタビューに応える松下さん
イラストレーター、松下さちこさん。取材場所となったBotanicalitem & Cafe CYANは、今回のコラボのきっかけを作った場所だ

私なんぞに声を掛けてくれるなんて!

―― 今回のクリスマスディスプレーは、藤崎百貨店のスタッフが『Botanicalitem & Cafe CYAN』で見かけた松下さんの絵に一目惚れしたことがきっかけになったそうですね。最初にコンタクトがあった時はどんな気持ちでしたか?
 
イラストレーター 松下さん(以下:松下) お話を聞いた時にはまだクリスマスディスプレーとしてどのくらいの規模なのか漠然としていたので、私にできることがどれくらいあるのかお話をきいてみないことには判断できないなと思いました。かわいらしい絵だとか、クセのない絵を描いているわけではない私にお声を掛けてくださったことがただただうれしかったですね。そして、私の絵を推薦してくださった奥山さん(藤崎社員の奥山るみさん。今回のディスプレーを担当)に会ってみたいという気持ちがありましたね。

―― 「できる・できない」という判断はどこで決めようと思っていたんですか? 

松下 依頼してくださる方がどれくらい愛情と熱量を持ってくださっているのかな、というところですね。基本的には私なんぞにくださるお仕事は全てお受けしたい気持ちがあるのですが、私はどうしてもそこが大事な判断材料になるんです。どれだけ制作期間が短かったり、その制作が難題だったりしても、やっぱり一緒に仕事をする方に熱量があると、逆に「やらせてください!」という気持ちになったりもします。

 

松下さんが描いた原画を並べた様子
松下さんが今回のディスプレーのために描いた作品の数々

 

藤崎の心意気を感じずにはいられなかった

―― そういう意味では、今回担当になって松下さんに声を掛けた奥山さんの熱量はとてつもなく大きかったのではないですか?

松下 そうですね。私を選んでくださったということ自体が、とても大きな熱量と心意気だなと思いました(笑)。従来の考え方ですと、きっとお客様に伝わりやすい爽やかなイラストを選んでいたと思うので、もう私に連絡を取ってくれた時点で、それは心意気を感じずにはいられなかったんです。私が子どもの頃から知っている百貨店ですからね。私を起用するという事がどれほどのチャレンジだということかというのはその時点ですごく伝わってきました。

―― 今回のディスプレー制作は、松下さんが描いた絵を活かして進めていったことを藤崎から伺いました。でも、一緒に制作を進めるうえで難しかったことやしがらみはなかったですか?

松下 今回のお仕事は個展とは違うので、ニーズに応える事が第一。当初はどこまで自分の絵の世界を押し出すべきか躊躇する気持ちもありました。藤崎という老舗店には昔からのお客様がいらっしゃいますし、やはりお客様のニーズに応えることが第一。でも同時に私に声を掛けてくれたんだから、そこは乗り越えていいのではないかとも感じていて。これまでのやり方に倣ったことをしていたのでは私がやる意味がない。それを飛びこえようとしてくれている藤崎の熱量に応えるだけでした。
 
藤崎のクリスマスディスプレー
 

私の絵を受け入れてくれる一番町という場所

―― そうすると、個展の場合と心持ちはだいぶ違いましたか?

松下 私は以前、お誘い頂いて半年間一番町でイベント出店した経験がありました。子どもから年配の方まで、この場所に来る方の多くが私の絵を受け入れてくれて、皆さん心の許容量が広いなあと感じていました。だから、個展じゃないからといってそんなにおっかなびっくりしなくても受け入れてもらえるんじゃないかなとは思っていましたね。

―― 実際、幅広い世代が松下さんの絵に触れて、受け入れてくれたようですね。

松下 そうですね。皆さん「面白い」とか「怖い」とか、私が思っている以上にいろいろな感想を持っていて、それぞれに受け入れてくれているんだなと感じていました。
 

藤崎百貨店のウインドウディスプレー前を人が行き交う
マーブルロードおおまち商店街に面したディスプレー

 

これは、仙台の街にとっても意味があること

―― ディスプレーが完成して、いろんな方が今までの仙台にはない世界観を目にしていますね。どんな反響が届いていますか?

松下 私はいつも作品に対して客観視してしまうんですよ。友達からは「なんだか人ごとのようでいつもと変わらない」と言われたり(笑)。でも、なんだろうなあ……。やっぱり、藤崎のスタッフの方はもちろん、このお仕事に関わった皆さんが頑張ってくれたことが一番大きいんですよ。例えば建築物だと設計をした建築家の名前が世間に大きく出るけど、実際に造っているのは職人さん達じゃないですか。名前は出なくてもそうやって造っている人たちがたくさんいて、建築家が描いたことを叶えようとして尽力してくれる。私がぜひこの取材でお話したいなと思ったのはそこなんです。私ひとりの力ではこの仕事は形になっていなかったでしょうし、今回は奥山さんをはじめ、藤崎のデザイナーの方たちが私の原画の魅力が伝わるように考えてくださったり、私が話したことをすごく掘り下げて噛み砕いてくれなかったら何も表現できていなかったはず。だから、私に対しての「すごいね」「楽しそうだね」という言葉は藤崎に伝えてほしいなって思うんです。そうして声にすると、頑張ってくれた藤崎の皆さんに届くはずですから。

―― 奥山さんは「このディスプレーは松下さんの絵の魅力を活かさないと意味がない」とおっしゃっていましたし、お互いの信頼感が伝わってくるようです。

松下 藤崎があれだけのことをしてくれたのは、仙台の街にとってもすごく大きなことだと思っているんです。仙台って100万都市の割に文化度が低いと言われていると耳にしますけど、藤崎という地元の企業が「何かを変えなきゃ」という意識でこういうことをしてくださったはず。それだけでもう大きな意味があることですよね。同業者の方達からは、あれだけの規模で展開できることが珍しいし、その仕事ぶりを見るとどれだけ丁寧で熱が込められているかすごく伝わると仰って頂きました。なんだかありがたい気持ちになりました。

松下さちこさんのイラスト
 

街中に入り込む絵を描く

―― あのディスプレーは、今まであまりアートやデザインに関心がなかった方たちにも新しい発見の入り口になったと思うんです。サラリーマンの方が見入ってる姿をよく見かけましたし。

松下 そうなんですよ。忘年会帰りのおじさん達がぼーっと観ていたりするその光景が楽しかったですね(笑)

―― それだけ多くの人の心に刺さるものがあったんでしょうね。それが、仙台の街中で、そして老舗の百貨店で起きた出来事だというのが驚きです。

松下 私は昔から壁に飾る為だけに絵を描こうとは思っていなくて、誰かがはいているスカートの裾に私のイラストが揺れていたらいいなとか、街中とかお茶の間に入り込める絵を描きたいなと思っていたんです。美術館やギャラリーはちょっと遠い場所にあるし、入館料も高かったりする。でも今回みたいにディスプレーなら美術館に行かなくても、ベビーカーを押しながらでも観られるし、制限とか決まりもないじゃないですか。「こういうことがしたかった」と改めて体感できた気がします。

―― それは松下さんの原点を表現できたということにもなりますね。

松下 そうですね。しかも、それを仙台の街中で表現できた。いずれたくさんのお店でこんなことができたら楽しそうですね。
 
松下さんのイラスト
 

「可もあり不可もあり」を目指そう!

―― あのディスプレーからは熱量だけではなく楽しさも伝わってきました。さらに、藤崎のスタッフの皆さんがたくさんの方を説得していいものを作ろうとか、変わろうとか、楽しんでもらおうとか、たくさんのことを飛び越えた先にある新しい発見がたくさん詰まっていると思います。

松下 これは常に思っていることですけど、せっかくやるなら「可もなく不可もなく」は絶対に嫌なんです。良くも悪くもそこで何かを感じてもらわないと意味がないと思っていますし、やっぱり何かしらの反応がほしい。だから藤崎の皆さんには、「可もあり不可もありでいんじゃないですか」という話をしたんです。出来上がってみたら、「こんなにやってくれたんだ!」とびっくりしましたけどね(笑)。

―― 出来上がりは想像以上でした?

松下 「思い切りやってくれた!」という感じがしましたね。周りからは「あれくらいの思い切りがいい」と好評でした。

クリスマスツリーのオーナメントも松下さち子さんのイラストで飾られている
藤崎の館内でも、至るところで松下さんが描いたイラストが飾られた

 

誰かの日常に寄り添えたことがうれしい

―― 今回は藤崎のお客さんだけじゃなくて、藤崎の従業員の方がすごく喜んでいたというのが印象的だなと思っています。会社の中で働く人たちも嬉しいだなんて、すごく素敵なお話だな、と。

松下 私も人づてに従業員の方からメッセージをいただいたのですが、「今年は館内がおしゃれで売り場にいるのが楽しかった」とか「仕事で悩んでいるときにあのイラストが目に入るだけですごく楽しい気持ちになって救われた」という言葉をいただきました。藤崎の近くで働いている方からも、「職場に行くのがすごく憂鬱だったけど、いつもより一本早い電車で藤崎まで来て、ディスプレーを見るのが楽しみだった」とかいうメッセージをいただいて、それってすごいことだなって。私がもし会社員だったら、一本早い電車に乗るなんて相当めんどくさいですもん(笑)。誰かの日常の中に、少しでも寄り添えたことはすごくうれしかったですね。

―― 松下さんの絵が、それだけ多くの人に響いたということですね。

松下 この仕事は自己表現ではなくて、社会とつながってなんぼ。通勤途中に少しでも観てくれていた方がいることはすごくうれしいです
 

画期的な取り組みはこれからの刺激に

―― 今回の仕事は、きっと松下さんと同じイラストレーターの方にもすごく刺激になっているでしょうね。

松下 東京では大手の百貨店さんがイラストを起用した素敵なウィンドウや館内装飾を展開していて、私も憧れを持ってみていましたが、地元で、しかも老舗百貨店がこれだけの規模で。しかも、クリスマスなのにサンタクロースも赤や緑もない。それでも表現してくださったのは本当にすごいことだと思っています。地元に貢献したいと思いながらなかなかその思いを形にしてくれる企業に出会えないというお話を聞きます。だからこそ藤崎が手がけた画期的な内容が広く伝わったのではないかなと思っています。

―― 今回の制作を経て、制作の幅に何か変化がありましたか?

松下 実は今回、このお仕事と個展のスケジュールが丸かぶりだったんですね。本当にストイックな毎日の中で今の自分に足りないものが見えましたし、必要なものも感じましたね。自分が今何をしたいのかもすごく明確になりましたし、それぞれの仕事が連動して気付くことがたくさんありましたね。
 

カフェで取材を受ける松下さん
「私じゃなくて、藤崎の皆さんの仕事ぶりに反響を届けてほしい」と何度も口にした松下さん

 

「一緒に仕事をしてよかった」と思ってもらえるように

―― クリスマスが終わって、このディスプレーを見られなくなるのがさみしいですね。

松下 そうですね。でも藤崎がこの次にどんなことをやってくれるんだろうと考えるのが楽しみになりますね。今回お世話になった方がたくさんいるので、「松下さんにお願いしてよかったね」と思ってもらえたらいいなと思いますね。最初は「なんだよ、あんなの連れてきて!」なんて言われて、奥山さんが辞表を出すことにならないかな、とかそんなことばっかり考えていましたから(笑)。
だからこれからは、奥山さんが社内の方たちに「よくぞ見つけてきた!」と思ってもらえるようにならないと。私の場合はお礼の言葉じゃなくて、この機会を踏まえて次に繋げていくことが藤崎の皆さんに対してのお礼になるんじゃないかなと思います。「あの時、松下さんと一緒に仕事をしてよかったね」と思ってもらえるように今後も頑張るだけです。

松下さちこさんイラスト
 
取材協力 Botanicalitem & Cafe CYAN
 

松下 さちこ

  絵描き。イラストレーター。仙台市在住。 第187回 ザ・チョイス 入選、ミナペルホネンデザイナー 皆川明氏審査。 http://r.goope.jp/m-sachiko-m
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