挑戦から生まれる「できなかった」が「できる」にかわる!
心と体にピッタリ寄り添う車いす
人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”
一人のためだけの一台を作るために
―― オーダーメードの車いすを作り始めて、何年になりますか?
大貫知行事業部長(以下大貫) 40年ほどになります。創業当時は介護用品を幅広く扱っていたのですが、当社ならではの特色を出したいと考え、当時珍しかったオーダーメードの車いすを作るようになりました。
―― 車いすというと、病院やショッピングモールで貸し出している折り畳み式のもののイメージが強いのですが、オーダーメードの車いすにはどんな特徴があるんですか?
大貫 当社のオーダーメードは使用感と強度を求められることが多いので、折り畳み式でないものも最近は増えてきています。それ以外の特徴は、全部違いますね。使用する方の体格や環境、病状などによって一台一台変わりますので、一つとして同じものはありません。

―― 発注から完成まで、どういう手順で作るのでしょうか
大貫 まず、営業担当者が医師、セラピストや使用する方とお会いしてヒアリングします。身体はどういう状態なのかという基本情報から、どんな車いすが必要なのか、1日で何時間使うのか、できる限り細かく聞き取ることが非常に重要です。これによって、どんな車いすになるかが大きく変わってきます。
身体の姿勢を保っていられない方なら姿勢が崩れない工夫が必要です。車いすで働きに出ている方なら、デスクワークがしやすい高さが、1日の利用時間が長い方だと、体圧分散能力が高いクッションが必要です。
障害が重い方の場合には足を置くフットサポート等にも工夫が必要になります。外出が多いなら、軽快に操作することができるように配慮します。同じ環境、同じ障害の方でもどんなふうに使いたいかによって、違う車いすになるんです。
聞き取りをもとに設計図を起こし、何度かチェックした後工場で生産に入ります。最短で1~2カ月、複雑な設計図だと3~4カ月掛かる時もあります。

―― 車いす一台にたくさんの工夫が詰まっているんですね
大貫 そうですね。一台一台が一発勝負なので、とても緊張します。
例えば、ピンクの車いす(上記写真)は重度の障害を持った方が生活するためのものです。四肢がリラックスするポイントを見つけるため、試作に1年以上掛けました。姿勢を維持できる形を計算し、採型機で型を取り、クッションを人体に合わせて削り出して姿勢を保持しやすいようにします。まさに、この方のためだけの車いすですね。
車いすは、義足などと同じように身体の機能を補完するための「補装具」です。残っている機能を活かすためにどうしたらいいか、いつも考えています。今まで車いすを自分で操作して移動できなかった方が、自分で操作をして移動できるようになる瞬間などを見ると、次も頑張ろうと思います。

“困る”くらい元気になる
小児用車いす「Hello!」
―― オーダーメード車いすの経験をもとに作られた「高齢者福祉施設特化型車いすPS-1」(上記写真)は、2014年にグッドデザイン賞を受賞。
高齢者が良い姿勢を保持できるとともに、高齢福祉施設のケアワーカーが調整しやすい車いすで、仙台を中心に全国で利用されていると伺いました。他にも、オリジナルの車いすはありますか?
大貫 PS-1は、実際に使用している方の意見を取り入れて新しいバージョンを東北福祉大学の関川伸哉教授と一緒に開発中です。昨年完成した小児用車いす「Hello!」は福祉機器コンテスト2017で最優秀賞を受賞しました。
体の大きさにもよりますが、1才くらいの小さなお子さまから5歳くらいまでを対象にした車いすです。「Hello!」については、工場の責任者で開発者の佐々木がお話いたします。

―― 開発しようと思ったきっかけを教えてください
佐々木 以前からお仕事をいただいている小児科病棟のスタッフさんが「小さい子どもが自分で使えて動き回れる車いすがあったらいいのに」と話していたことにヒントを得ました。よしやってみよう、と試作機を作り持っていったら、1歳8カ月のお子さんが自分でタイヤをこいで動かせたんです。
1~2歳の子どもといえば、自分であちこち行ってみたくて仕方ない年齢でしょう。好奇心が芽生えるタイミングで自分の意志で動く経験を提供できれば、心身の発育やその後の車いすでの就学にも良い影響を与えることができます。
大人用の車いすの座幅が40cmなのに対して、「Hello!」は最小25cm。ブレーキをタイヤ自体に付けて安全性を高めたり、お父さんお母さんが子どもと並んで歩けるハンドルをつけるなど、子ども向けならではの工夫をしています。
保護者の声を活かし細部を改善
―― 確かに小さい!それに軽いですね。これだったらバギーのように押して、公園に行くこともできそうです。お子さんが動かしている姿、かわいいだろうなぁ
佐々木 本当にかわいいですねぇ。使用しているお子さんのおうちを訪問する機会があるのですが、その時お母さんが笑いながら「とっても困ってる」と言ったんです。
「今までは座りっぱなしだったのに、『Hello!』に乗るようになってから自由にあちこち行ってしまうので、目が離せない」って。お子さんも「Hello!」に乗るとすごくはしゃいで「おりたくない!」って走り回るんです。
とてもうれしかったですし、作ってよかったと思いました。良い意味で困ってしまうお父さん、お母さんがどんどん増えたらいいなと思います。ちなみに、バンパーは、保護者の方の意見をもとに増設したものなんですよ。
―― バンパーとはフットレストの下側に付いている柔らかいフレームのことですか?
佐々木 そうです。小さいお子さんって加減を知らないので、全速力で車いすをこいで「ママー!」って突進してくるそうなんです。その時、フットレストの先端が、ちょうどお母さんの脛にぶつかると「痛くてたまらないので、何とかしてほしい」って。保護者の方が怪我をしたら大変なので、すぐに改善しました。
―― 前例が少ない車いすをゼロから開発するのは、困難も多かったのでは?
佐々木 長い期間小児科病棟とやり取りをして得た情報の蓄積や、オーダーメードの実績があったからこそ実現できたと思います。試行錯誤ができるのは、自社に工場があるからでしょうね。ちょっとやってみようか、とすぐにチャレンジできる環境が整っています。
若い人材がどんどん
チャレンジできる環境
―― そう言えば、インタビューした会議室に「挑」の文字がありました
大貫 そうですね。オーダーメードの車いすは、一個一個がすべて新規開発のようなものです。
フレームの角度からクッションのカーブまで、常に挑戦の連続。工場で働いているスタッフは平均年齢が30代。機械の勉強をしてきた人、劇団の大道具で働いていた人と、さまざまなバックグラウンドがありますが、「常に新鮮な気持ちで仕事している」「使用者のいきいきとした表情をみるとうれしい」とやりがいを感じながら働いています。
「Hello!」が最たる例ですが、工場のスタッフから「こんなことをやってみたい」と意見が出ることも多いですね。長く勤務していると、どうしても思考が固まってきますので、若いスタッフから新しい情報や意見があがってくるのは、とても有難いと思っています。


前へ進むための
車いすをつくる
―― 車いすのイメージが変わりました。毎日を元気に過ごし、未来に進むための道具なんですね
大貫 開発している私たち自身も「こうしたらもっといいかもしれない」「こんな技術を取り入れてみよう」と、いつも前向きに取り組んでいます。皆さんが、乗ってみたい!使ってみたい!と思えるような車いすを作りたいんですよね。
使用する方が本当はできることを最大限引き出して、いきいき過ごせる車いすにしたいと思っています。
※こちらの記事は、2018年5月31日河北新報朝刊に掲載されました。
株式会社ジェー・シー・アイ
1976年に創業。仙台市に本社を、大和町に本部と工場を構える。車いす事業の他、福祉用品のレンタル・販売、高齢者福祉施設や保育園の運営など幅広く事業を展開している。「福祉事業を通して高齢者や障がいを持つ人々の自立を支援する」、「社員とその家族の幸せの追及を通して、お客様や地域社会に貢献する」を理念に挑戦を続け、2014年には「高齢者福祉施設特化型車いすPS-1」でグッドデザイン賞を受賞。
http://www.jci-1000nen.co.jp/
撮影 三塚比呂