産廃業者が新たに手掛ける資源を循環させる「7次産業」への挑戦!
人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”
ごみを宝に変えるアイデアは
新しいきっかけをつくる
モノトーンの壁面に、コンクリートの打ちっぱなし、そこへ木の質感が不思議とマッチし、洗練されたスタイリッシュな雰囲気が漂う「眞野屋」。きっとお金をかけて内装を手掛けたに違いない、と思っていたら、代表取締役社長の真野仁希さんから驚きのひと言が。
一見おしゃれな柱や壁に使われている内装資材も同社のアップサイクル製品。眞野屋はショールームの役割も果たす
「ここにある什器や家具などは、ほとんどが廃棄されるはずだった不用品から作ったものです。2019年9月に急逝した、前社長でもある父と、私と従業員で作り込みました。私も実際に解体現場から、トラックに積んでここに運搬して工事をしましたよ(笑)」
「世界のごみ問題に取り組んでいきたい」と意欲を話す代表取締役社長の真野仁希さん
たとえばカフェの売店は貨物コンテナを再利用したもの。カフェの座席や商品棚に使われているのは学校の椅子やロッカーです。これらは、同社が回収した物に自社で手をかけよみがえらせた「アップサイクル」品。
アップサイクルとは、不要になったもののもとの形状や特徴などを活かしつつ、新しいアイデアを加えることで価値ある製品に生まれ変わらせること。ファッション業界などを中心に近年認知が高まってきています。
JACでは自社のアップサイクル品に「SINZEN(シンゼン)」とシリーズ名を付けてブランド化。眞野屋はそのショールーム的な役割も果たしています。「ご来店いただくお客様には、おしゃれだな、おいしそうなものが売っているな、というきっかけで来てもらえたら幸いです」と真野社長。「とにかく足を運んでいただき、弊社の取り組みに関心を持ってもらうきっかけにつながれば嬉しいです」と笑顔で話します。
カフェの座席に使われているのは廃校になった学校から回収しきれいにアップサイクルされた椅子や机
企業の未来を変えた
被災地での出会い
JACがアップサイクルに取り組むきっかけは、東日本大震災の被災地でのある出来事だったといいます。1987年の創業からしばらく、解体業、産廃処理業を専門に手掛けてきた同社は、震災時、がれき処理の仕事に携わっていました。その中で前社長はあるおばあさんと出会います。
「そのおばあさんから、前社長は震災のがれきの前で『思い出ってあっという間に壊れるよね』と悲しそうに言われたそうです。そのひと言を聞いて“壊れたものから新たにものを作り、人々に返してあげることをやりたいと思った”と話していました」
前社長自身が石巻出身ということも、震災復興への思いを強くしたのでしょうか。当時から前社長の間近で働いてきた福島事業所所長の中野隆史さんも、その思いを感じていた一人です。「復興の仕事で得た利益を東北に返したいという思いが前社長はとても強かったです。
その恩返しを含め、弊社の25年間の取り組みを全部詰め込んだ店を作ろう、ということで生まれたのが眞野屋なんです」。
シックな雰囲気を醸し出す眞野屋のエントランス
モットーは地域のことから
地球のことまで
真野屋誕生に至るまでのJACの取り組みの柱が「リサイクルの7次産業化」です。同社独自の考え方として、産業廃棄物リサイクルで再生熱エネルギーを作るまでを1次産業、その熱を利用したバイオマスボイラーとビニールハウスでの農作物の生産を2次産業、その販売やサービスを3次産業と位置付けています。
県内最大級のリサイクル設備を導入している蔵王資源リサイクル工場(写真提供:ジェーエーシー)
蔵王資源リサイクル工場は廃棄されたプラスチック類を固形燃料などに再生する資源再生施設( 写真提供:ジェーエーシー)
「以前は解体業がメインでしたが、中間処理部門の角田センターと、産廃の中間処理からリサイクルまで行う蔵王資源リサイクル工場を作ってからは、解体からリサイクルまでを一貫して行っており、それがうちの強みになっています」と中野さん。
独自の7次産業化について熱く説明してくれた福島事業所所長の中野隆史さん
ビニールハウスの骨組みは、間伐材を使用した自社開発の「新シザーズトラス構法」で建設。同構法は昨年「グッドデザイン賞」を受賞しています。
新シザーズトラス構法の実物を眞野屋ビル内に展示
ではその6次化にプラスする1とは? 中野さんに訊ねました。「自己満足に陥らず、本当にお客様が求めるものを作ること、また、地域の価値あるものを見いだしきちんと宣伝すること、そしてそれらを消費者の手に渡すところまでの仕組みを実現させるということです」。眞野屋の品ぞろえからも、そのプラス1を感じることができます。
食品売り場に並ぶ新鮮な野菜や肉から、総菜、調味料、さらに東北の作家の手による生活雑貨に至るまでいずれも生産者の「顔」と「こだわり」が見えるもの。特に食品類ではオーガニックやビーガンフーズの品ぞろえは東北でも指折り。棚の一つ一つから、眞野屋のテーマ「健康と美」の提案がしっかりと伝わってきます。
マルシェ、カフェ、レストラン、ベーカリーに加えて、作り手の顔やこだわりが見える生活雑貨もそろう
販売促進主任の大場吉裕さんは「どれも一軒一軒生産者さんと話をして置くようになったものばかり。生産量が少なく他にはなかなか出さない商品でも、弊社の取り組みに共感して『それならぜひ』と取引が始まった方もいます」と胸を張ります。
販売促進主任の大場吉裕さんは「1年たって眞野屋にコアなファンがついてきた」と話す
7次産業化に眞野屋は欠かせない、と真野社長は力を込めて話します。
「『眞野屋を通じて人と人、地域と地域の架け橋になりたい、そこからさらに地球の環境問題にも貢献していきたい』と前社長は生前よく言っていました。私自身も、地球的規模で環境問題や貧困問題に目を向け、少しでも還元できるような仕組みづくりができる、そういう企業でありたいと考えています」。
JACが今取り組み始めているのが、世界的にも大きな課題となっている海洋プラスチックごみの問題。
「弊社のモットーは『地域のことから地球のことまで』なんです。まだまだこれからなのであまり大きなことは言えませんが、世界のごみ問題にも積極的に取り組んでいけたらと思います」
最後に、真野社長から学生の皆さんに力強いメッセージをいただきました。
「皆さんが学生から社会人へと階段を上るとき不安や期待など様々な感情でいっぱいになると思います。それは誰もが経験することであり、決して恐れることではありません。学生の間に興味を持ったこと、やりたいことを見つけてください。何度も挫折することがあるかもしれませんが自分の芯を変えずチャレンジすることです。それがきっと将来、自分の糧になり財産になります。1日を無駄にすることなく自分のために行動し、考えることが重要だと思います。」
1階に眞野屋が入る北仙台の本社ビル(写真提供:ジェーエーシー)
※こちらの記事は、2020年9月30日河北新報朝刊に掲載されました。
●株式会社ジェーエーシー
1987年設立。宮城県仙台市本社。産業廃棄物処理やリサイクル事業を主に手掛ける。資源リサイクルを基盤とした「生産~加工~販売」の取り組みに加え、価値あるものを消費者へ届けるプラットフォームとして「眞野屋」を展開しており、限りある資源を循環させる仕組みの実現を目指している。 株式会社ジェーエーシー https://www.jac-miyagi.com 眞野屋 https://www.manoya.co.jp
撮影 Harty(澤田 千春)
※この記事の取材・撮影は新型コロナウイルス感染防止対策を徹底し行いました。