社風は「なんでもアリ!?」有名漫画家も認めた!名フィギュア工房
全国から入社希望者が押し寄せる地元企業
人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”
illustration by iXima © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net
「田舎」生まれのフィギュアたち
―― 工房の中には、出荷前のフィギュアがたくさん!バーチャル・シンガー初音ミクをはじめ、国民的な人気の海賊や、あの怪盗団も!東京の展示会やイベントなどで見たことがあるものばかりです。依頼が多く、最近では数年待ちの案件もあると伺いました。ファンや関係者の評判がいいようですね
熊谷和也 南方営業課課長(以下熊谷) そうですね。とても有難いことにたくさんお声掛けいただけるようになりました。うちで作っているフィギュアは、ヒューマンサイズの等身大フィギュアが多く、イベントなどで飾る用のほか、漫画の読者プレゼントなどに使われることが多いです。大規模な展示イベントで使われた「海賊漫画」の主人公のお兄さんを表現した等身大フィギュアは、作家さんにもとても喜んでいただいたんですよ。後日違うキャラクターの立体造形を手掛けた時に作家さんから「ああ、あの○○(キャラの名前)を作ってくれた会社さんか!」と言っていただきうれしかったです。
―― すごい!出来上がりのフィギュアは迫力がありますね…。そもそも宮城県にフィギュアを作っている会社があるということに驚きました

熊谷 当社はフィギュアの制作をはじめて、まだ10年ほどですが、他社さんと遜色がない技術を持っていると思っています。
立体造形をやる会社はほとんどが首都圏にあるのですが、うちはこんな何もない田舎なので。東京から視察に来た作家さんや出版社の方は、やっぱり皆さん驚きます(笑)。こんな田舎で作ってるんだ、って。関係者が遠くから、わざわざ「登米」に視察に来るような仕事をしたいと思いますね。
illustration by iXima © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net
きっかけは看板職人のアイデア!?
―― デザインココさんは、もともと広告代理店だったそうですね。フィギュアを作り始めたきっかけは何だったんですか?
熊谷 広告は今も携わっているのですが、もともとは大きな看板や、イベントや大型店舗で使う造形物を中心に扱う会社でした。地元企業から発注を受けて仕事をする普通の会社です。そんな当社がフィギュアや立体造形を始めたきっかけは、実は、ひとりの看板職人のアイデアなんです。ある時彼が、格闘漫画のキャラクターのフィギュアを「これを自分で作った」と会社に持って来たんです。こういうことを会社でやれないか、と。統括プロデューサーがそれを見て「おもしろいね、やってみようか」商売にできるかもという予感があったのでしょうね。
デジタルと手仕事の融合
―― 3Dプリンター(写真❶)を使ってフィギュアを制作していると伺いました。通常フィギュアの原型は職人さんの手作りというイメージがあるのですが、3Dプリンターを使うと、フィギュアはどう良くなるのでしょうか。デザインココさんが評価を得ている秘密も、そこにありますか?
熊谷 フィギュアの制作は、紙に描かれたキャラクターの設定や絵コンテを渡されるところから始まります。通常は、それをもとに「原型師」と呼ばれる職人さんが方眼紙に立体絵を書き、発泡スチロールを削って原型を作るのですが、当社では、その手作業の過程を3Dデータと3Dプリンターで行います。

パソコン上で3Dデータを作り、それをクライアントに確認してもらって、OKがでると3Dプリンターで出力するという流れです。データなので、修正や方針転換への対応がスムーズでクライアントにも喜ばれています。発泡スチロールを削って造型を作る作業はベテランの職人でも数日かかりますが、3Dプリンターなら、夕方にセットすれば、次の日の朝には完成していますので。
―― なるほど!クライアントにも喜ばれそうですね。



熊谷 はい。でもうちの立体造形が評価をいただいているのは、仕上げの丁寧さにあると思っています。「モノづくりには、アナログとデジタルの両方が必要だ」と統括プロデューサーがよく言うのですが、本当にその通りです。例えば、画面上では違和感なく仕上がっているように見えるデジタルデータも、実際に出力してみると「なんか違和感がある…」ということがあります。そういう数値化できない誤差を修正するのは職人の技術です。それからとても気を遣うのは彩色です。立体造形は通常あまりシャドーを付けないのですが、うちではシャドーを工夫して、より立体的に、リアルに見えるようにしています。
―― おもしろいですね。話を聞いているだけでワクワクしてきます。職人の細やかなこだわりと、最先端の技術が一緒になって、このフィギュアが出来上がっているんですね。
熊谷 そうですね。CGデザイナーと職人さんの技術、両方必要です。ですから人材育成は、とても大切にしています。うちの会社で働きたいと、引っ越してきてくれる人もいますが、三塚くんのように「原型師になりたい」と思いのある地元の子を積極的に採用しています。

思いを持ち集まる若手職人たち
―― 三塚さんはどうしてデザインココさんで働きたいと思ったんですか?
三塚健吾さん ずっとこういう仕事をしたいと思っていました。原型師になるにはフィギュアのコンクールに応募して賞をもらうというパターンが多いので、僕も最初は普通の会社に就職して空いた時間に技術を磨いていたのですが、やっぱりもっとしっかりやりたい、と思って。デザインココでは大きなアニメの案件にも携わっているので、やはりモチベーションが上がりますね。皆好きでやっている仕事なので、やる気があって勤勉で、とても働きやすいです。魅力は、いい意味でセオリーがないところかなと思います。やってみたい!と思った気持ちを大切にしてくれるというか。やる気をなくさせない会社だな、と思っています。
熊谷 若手には、当事者意識を持って仕事をしてもらいたいと思っています。自分がどんな仕事に携わってどんな作品を作っているのか意識できるようになると、どんどん成長するんです。やる気を出してもらえるのは、会社にとってもとてもいいことです。フィギュアを始めたきっかけも社員の「趣味」ですし、けっこう「なんでもアリ」なんですよね(笑)

多彩な挑戦も実は地続き
―― さまざまなことに挑戦するのは勇気がいることだと思います。すごいですね。
熊谷 うちではよく「デジタルツリー」という言葉を使って説明しています。木の幹にあたるのが「データ」。枝や葉にあたるのが「看板」や「立体造形」、「3Dプリンター」などです。幹である「データ」を持つ技術がしっかりあれば、それをどういう形で具現化していくかは、いくらでも選択肢があるという発想です。「データ」があれば、それを「看板」にしてもいいし、紙に印刷してもいい。「立体造形」も「データ」があれば、拡大したり縮小したり、アレンジしたりするのも簡単です。一見、大きなチャレンジに見えることも、データを軸に考えれば地続きだったりするんです。
―― なるほど、技術がどんどん進んでも、データがあれば対応できますもんね。今後チャレンジしたいことはありますか?
熊谷 すでに販売を始めていますが、3Dプリンターの開発や販売は力を入れたいと思います。
―― 3Dプリンターも作っているんですか!
熊谷
はい。等身大のフィギュアや立体造形を作るのに、通常の3Dプリンターだと奥行きや高さが足りないことがあって。「じゃあ使いやすいものを作ろう」と。フィギュアの制作会社さんなどに購入いただいています。また人工関節作りなど医療分野への進出も始めています。「デジタルツリー」の概念で言えば、どれもつながっているんです。
―― フィギュアを見る目が変わりそうです。おもしろいお話をありがとうございました!
※こちらの記事は、2018年6月30日河北新報朝刊に掲載されました。
株式会社デザインココ
2000年9月設立。看板、立体造形、フィギュア、映像などを手掛ける広告代理店。仙台市一番町、東京都浅草などに事務所を持つ。工房は登米市。「アンパンマンこどもミュージアム」の企画・施工、初音ミク「マジカルミライ」のフィギュア制作を昨年に続き行うなど実績多数。3Dプリンター中型機「L-DEVO」シリーズ、大型機「COCOMIYAGI 76」を開発・販売。
https://dcoco.info/