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開発から実用化までオール東北でつくる「単結晶」とは

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Ç&Aの皆さん

株式会社C&A/
開発から実用化までオール東北でつくる「単結晶」とは

 東北大学金属材料研究所といえば、材料研究において世界トップレベルの研究機関として知られています。そこに籍を置く「吉川研究室」での「単結晶」の研究を事業化するため、2012年に東北大発のベンチャーとして設立されたのが株式会社C&A。
 大学発ベンチャーだからこそできること。そしてこれからの社会で目指すもの……。ワクワクに満ちたお仕事について、代表取締役社長の鎌田圭准教授、代表取締役CEO兼CTOの吉川彰教授、そして若手スタッフの村上力輝斗さんにお話を伺いました!

Jan 31, 2020   

人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”

東北大発ベンチャー

開発から実用化までオール東北でつくる「単結晶」とは

この小さな粒も単結晶。用途に合わせてサイズを変える

東北大学「実学の精神」
ここに極まれり!

「単結晶」とはどんなもので、どのようなビジネスを展開しているのですか?

吉川彰代表取締役(以下、吉川) 「単結晶」の例を身近なもので挙げると宝石があります。ダイヤモンドやルビー、ガーネット、水晶のような透明に見える鉱物はほとんど単結晶です。私たちは結晶の材料、それを作るレシピや装置を販売しています。

「単結晶」を作っているのですか?

吉川 水晶などの結晶は、天然のものは純度にバラ付きがあります。単結晶の特性向上を狙う時は、一部の元素を替えてみます。われわれの世界は「千三つ」といわれていて、1000回くらい失敗してその中の3つくらいが「当たり」。理屈を考えてやっているのに、なかなか見つかりません。

吉川教授は、単結晶や自社の事業についてわかりやすく説明してくれました

大学の研究室から、なぜ会社にしようと思ったのですか?

吉川 最初は起業を全く考えていませんでした。それまでは結晶を作って、「こういうのができましたよ」っていうと、企業が「じゃあ実用化や大量生産はうちが担当するよ」という役割分担でした。それが、2008年のリーマンショックのあたりから対応してくれなくなりました。
 そのころ、彼(鎌田准教授)は民間企業にいて「結晶の特性がダメだと思っているんではなくて、経営的に厳しいんです」と企業側に開発する余裕がなくなってきたことを教えてくれました。「それじゃあ自分たちでやろうぜ」となりました。

鎌田圭代表取締役社長(以下、鎌田) 私はこの研究室を卒業しました。学生だったときに吉川先生が助手だったこともあり、起業の際に声を掛けていただきました。

鎌田准教授は、民間企業での経験を活かし、事業展開を行っています

東北大学は起業しやすいと伺いました

吉川  東北大学と大阪大学は、兼務しやすい仕組みになっています。この研究所の初代所長である本多光太郎博士が「産業は学問の道場なり」という言葉を残しているように、実学の精神があるからだと思います。

「単結晶」は、具体的にはどのようなことに使われるのですか?

鎌田 放射線検出の原理を利用した医療画像装置の内部に使われています。

C&Aで製造したシンチレーター用の単結晶、乳がんの検査機に使用されている

吉川  CTや、がんを調べるPET検査機などです。正確な診断のため、高精度の画像が求められる装置に、純度の高く均一組成の結晶が必要です。数年前に“世紀の発見”として話題となったヒッグス粒子の発見にも、シンチレーターと呼ばれる結晶材料が検出器用の素子として使われました。

鎌田 手荷物検査機や、宇宙からくる放射線物質をとらえて画像化するための人工衛星のカメラにも使われています。

「単結晶」は私たちの生活の身近なものや宇宙まで、さまざまなものを支えているんですね。ところで、C&Aの材料は、開発から実装されるまでの期間が短いと伺いました

吉川 通常は約10年掛かるといわれていますが、われわれは1年ほどで実装化することもあります。これを可能にしているのが、ユーザーの意見をあらかじめ聞きながら研究ができるように産学協力研究委員会を作ったことです。この委員会では要素技術の上流から下流までを担う各会社に会員になっていただいています。
 例えば、結晶を作る会社、放射線を当てた時に出る光を電気信号に変える受光素子のメーカー、それらを組み合わせて装置を作る会社、さらには原発を作る会社にも入ってもらって。ひとつの業界に対して上流から下流まで、それぞれの立ち位置の人が「こういうものがほしい」というのが出るから、無駄なく研究開発・製品開発ができます。

研究室で働くロシア出身のリュドミラ・グスチナさん

外国人研究者と談笑する吉川教授。研究室では英語が飛び交う

地元学生を積極採用!
求める人材とは?

地元の学生を積極的に採用しているそうですね

吉川 開発部隊は東北大、製造部隊は仙台高専出身の方が多いですね。幸い、東北大は材料研究に強いので、頼りになります。

どんな人材を求めていますか?

吉川 材料に対して興味を持ち、新しい材料の社会実装を楽しいと思える人がいいですね。

鎌田 私は、知識の専門性を重視しますね。人付き合いが苦手でも、知識と専門性があったほうがいい。

なぜみなさんは、この研究分野に飛び込もうと思ったのですか?

吉川 私は日本が経済大国の仲間入りを果たした80年代に高校生でした。国に貢献したいという思いがあったので、経済学部に入ったのですが、なんと経済大国の日本を支えているのが工業製品だということをその時に知りまして(笑)。「それなら経済学部じゃダメじゃん!」と。それで理系に転向しました。

鎌田 私はもともと理系ではあったのですが、まったく違う研究をしていました。特に結晶がやりたかったわけではなく……。あれ? なんでですかね?(笑)でも、研究成果が世に出しやすく、社会実装されやすいのが魅力だと思いました。

村上力輝斗さん(以下、村上) 高校生の時に「合金とは何か?」という疑問を持ったことから、東北大・金研を目指しました。学生時代は吉川研究室に所属して、修士号をとりました。

吉川教授に直談判して入社を決めたという村上さん

村上さんは、新卒でC&Aに就職したのですか?

村上 最初は大手企業を考えていたんです。しかし、リクルーターの方と話をしているうちに、これでいいのか? と突如、第六感のようなものを感じ、吉川教授に「新卒の修士の採用を検討していただけないでしょう?」と直談判しました。

吉川 そうそう! 彼が初めての新卒採用になるのですが、当時は新卒の採用なんて予期していなかったから、どうしよう!? ってなって(笑)。

鎌田 内定予定先の企業の労働条件を調べて、それよりちょっとよくしてね(笑)。

海外で行われる国際学会にも出展。国際的な認知度も高い(写真提供:C&A)

村上さんが新卒採用の道をつくったんですね。C&Aに入社してよかったと思うことは?

村上 専門性をそのまま発揮できることですね。同級生の中には、大手企業に就職したものの、思ったほど専門性を活かせず、転職してしまったという話を聞くことがあります。私の場合は、研究室で学んだことを入社1年目から活かすことができました。これは得難い経験だと思います。

具体的にはどんな仕事をしているのですか?

村上 特殊な金属を、溶けた状態から直接ワイヤーにする技術を研究しています。プラチナやイリジウムといった、稀少な金属を無駄なく成形することができます。

単結晶を作る「るつぼ」の入った機械

三者三様の研究者が
同じ企業で目指すもの

村上さんはどんな学生時代を送ったのですか?

村上 学生時代は研究一筋でした。修士のときは研究して論文を書いて学会で発表して……というのがライフサイクルでしたね。

人工的に室内を低湿度・低酸素分圧にする装置。ここで吸湿性の高い結晶の原料の調合を行う

今後のビジョンは?

鎌田 研究と大量生産の間の一番つらい部分を担っていきたい。大量生産に関しては自社ではなくOEM*でいいと思うんです。実際にうちの生産は東北の工場にお願いしています。開発から実用化までというコアな部分をしっかりして、新しいものを開発していきたいですね。
*OEM/ 委託者のブランドや企業名で商品を受託生産すること

吉川 東北の中堅どころの工場は、大企業のOEMをかなりやっています。でも、ここ最近はアジアに工場を持っていかれてしまうという現状があって。
 だから、僕らが製造委託することで、少しでも東北の発展につながっていったらいいと思っています。

最後に、読者にメッセージを

吉川 社会実装に興味があったら、一緒に働きましょう!

鎌田 安定志向はつまらないので、冒険しましょう!

村上 安定志向の学生さんが増えているように感じますが、自分の力で未来を切り開いていきたい方は、中小企業やベンチャーを検討してみるのもいいのではないでしょうか。

東北の発展を目指すC&Aの(左から)村上さん、吉川教授、鎌田准教授

 なんだかスゴイことをやっている……。そんなイメージだった「東北大学金属材料研究所」。
 今回、C&Aを訪れて、その「スゴイ」がどれだけスゴくて、私たちの生活を支えてくれているのか知ることができました。いやぁ。科学って面白い! 科学者ってカッコいい!

※こちらの記事は、2020年1月31日河北新報朝刊に掲載されました。



●株式会社C&A

 2012年設立の東北大発のベンチャー企業。結晶材料・合金線材を中心に大学の研究成果を迅速に実用化。製造は東北の企業に委託し、「工場をもたないメーカー」として東北経済の活性化や日本の国際競争力向上に向けて日々挑戦を続けている。 http://www.c-and-a.jp/index_jp.html

撮影 Harty(朝倉 佳苗)

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