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夢は後からついてくる! 縁ある場所で愛されよう

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ビックママの色とりどりの糸

株式会社ビック・ママ/
夢は後からついてくる! 縁ある場所で愛されよう

洋服などファッション全般の「お直し」を手掛ける株式会社ビック・ママ。「お直しコンシェルジュ」と銘打って気軽に依頼できるスタイルを確立し、急成長。いまや首都圏をはじめ全国に68店、海外に10店を展開し、他業種にも進出しています。大躍進の裏側と将来のビジョン、若者へのメッセージを守井嘉朗社長に聞きました。

Jan 27, 2019     

人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”

「お直し業界」にもたらした革命
夢は後からついてくる!
縁ある場所で愛されよう


仙台市若林区の本社ビル


ミシンがけの音が響く工房内。丁寧かつスピーディな仕事が求められる


色も種類も多彩な糸が美しい

出だしは不調
赤字続きで最後の一手

「業界の革命児」「ビジネスモデルの構築者」として語られることの多い守井社長。
そもそも、どんな夢を描いて会社を作ったのでしょうか。

「壮大な夢も、劇的なストーリーもないですよ。大学を卒業して社会人になりたての頃、尊敬する先輩から、父親の事業を継いだ方がいいと助言されて、これも縁かなとやってみたというのが実際です」。
それが、前身の「守井加工所」。大手スーパーの衣料品売り場の下請けで、裾上げなどを行っていたそう。

23歳で父のもとへ入った血気盛んな守井青年は、すぐに守井加工所を引き継ぐ形で法人化。
その後、1993年に25歳で株式会社を設立します。

多角経営を目指し、さまざまな事業を生み出す母体にしようという思いから「ビック・ママ」と名付けました。
しかし、経営は軌道に乗らず赤字続き。

「にっちもさっちもいかなくなり、99年に最後の賭けのつもりで一番町の『ファッションドーム141*¹』(当時)に店を出しました」。

*¹ファッションドーム141/ 現在の仙台三越定禅寺通り館


「シッポを付け直して」と着ぐるみが来店したことも、とエピソードを語ってくれた守井社長

苦肉の策が吉と出た
画期的な「お直し専門店」

それは誰でも、どんなに小さなお直しでも持ち込める、これまでにないタイプの「お直し専門店」。
当時、洋服のお直しといえば、サロンスペースに通されて相談するような、丁寧だけれど敷居の高いものでした。

そこで守井さんは、主に高級品を扱う店とは差別化を図り、例えば子どもの赤白帽のゴム替えなどでも気軽に頼める店を作ろうと考えたのです。

ところが資金不足のため、借りられたスペースはわずか4坪。仕方なく受け付けはカウンターのみにし、ミシン糸は壁に貼り付けるように並べて作業スペースを節約。
店ではファスナー交換など簡単なお直しだけを行い、他は自社の作業場へ送るシステムにしました。

蓋を開けてみるとこれが大当たり。

「簡素に思えたカウンター形式が、逆に喜ばれました」と守井社長。
「こんなふうに頼みやすい店を探していたのよ」というお客さんの声を直に聞いたときは、感激したそう。
下請けで培った確かな技術力も後押しし、店の評判はまたたく間に広まりました。


作業スペースを節約した「小さなお店」は、業界のビジネスモデルに(写真提供:ビック・ママ)

ついには行列ができるほどの大繁盛。勢いは止まらず、東京をはじめ首都圏へも進出します。
ここで生かされたのが、小規模店舗というメリット。場所を確保しやすく賃料も安く済むため、人気ファッションビル内や一等地へ次々に出店できたそう。
後に、業界で大流行しビジネスモデルの一つとなる「小さなお店」のスタイルは、苦肉の策から生まれたのです。

 

仕事の本質とは
「いかに喜んでもらうか」

「縁をいただいた場所で愛される努力をする」インタビュー中に繰り返し口にした、守井社長の人生訓。
お直しの世界に飛び込んだことも、狭さを逆手に取って工夫したことも、そう。

「もともとやりたかったことではない。でも自分の置かれた環境で、いかに喜んでもらえるかを必死に考えました。本来、仕事とはそういうものだと思う」。

強く望んだ仕事ではなくても、期待以上の働きを見せることで“愛される”。
すると新たな仕事が回ってくる、もっと頑張る、さらにいい仕事が与えられる……「そのうちに必ずやりがいが見えてくるものです」。
自らこの好循環を勝ち取った守井社長。
ビジネスの面白さに目覚め、2014年からはシンガポールを皮切りにベトナムやタイへも出店するなど、右肩上がりの躍進を続けています。


ショッピングモール内にある海外店舗(写真提供:ビック・ママ)

 

企業は人
辞めない会社を作る

これから何を目指しますか、と尋ねると「働く人の環境を良くしたい」と守井社長。
「企業は人。ビジネスを続けていくには安定的な人手の確保がもっとも重要で、労働環境は最優先事項です」。

ビック・ママの従業員はほとんどが女性。辞めていく人が多いのが課題だったそう。
「なぜ辞めるのか考えました。思い当たったのは、うちの従業員には子育てや介護を抱える人、障がいを持つ人など、社会的に弱い立場の人が多いこと。もう一つは、壁にぶつかると比較的すぐに『辞める』という選択をしてしまうことでした」。

それなら、彼らが続けられる仕組みを作ろう――やるべきことが明らかになれば、すぐ動くのが守井社長

さっそく、子育て中の人が働きやすいように自社で保育所「ビックママランド」を設立しました。
現在5カ所を運営し、多くの「ママさん従業員」の育児と仕事の両立を支えています。


本社ビル内にある保育所「ビックママランド東八番丁園」には明るい声が響く

また、今後は困難に負けず働き続けられる人材を育てようと、「心の知能指数」といわれる「EQ*2」を訓練するプログラムを従業員教育に採用。
「ノーと言える力や、課題を解決する力、助けを求めたり他人を助けたりする力を養うことで、社会で生きる総合力が身につきます。結果として、発作的に辞める人が減ればいいなと」。

こうして、ハード(施設)とソフト(教育)の両面から、働き続けられる環境作りに着手しています。

来年度からは、障がい児やその保護者の支援の第一歩として、放課後等デイサービス*3事業も開始。
将来的には、就労支援施設やグループホームも運営し、障がいを持つ人の仕事と生活をトータルでサポートしたいと考えているそう。

*2EQ/自己や他者の感情を認識し、自己の感情をコントロールする能力を指す。IQ(知能指数)に対して使われることが多い
*3放課後等デイサービス/ 障がいを持つ子どもが、放課後や学校の休日に利用する福祉サービス

 

いい仕事を生み出し
お客さんも従業員も幸せに


スキルを生かして長く働ける。驚くなかれ、最年長の職人は80歳代

他にも、写真館や洗濯代行サービスといった事業も行う同社。
保育所や放課後等デイサービスは、従業員専用ではなく一般向けに展開するほか、EQプログラムを活用した幼児教室も運営しています。
「今は種をまく時期。花開くのはこれからです」と守井社長。

一見、関連のない多くの事業を手掛けているようですが、実はどれも自社の働く環境作りの延長。
働く女性の支援のノウハウを「誰かの困りごとの解決に役立てば」と事業化するのは、ごく自然な成り行きだったと話します。

さまざまな業種に進出するのは「たくさんの人に喜ばれたいから」。
お客さんが喜び、感謝された従業員が喜んでさらにいいサービスを提供する、という循環。
「いい仕事は幸せを生みます。そのループをたくさん作りたい」。

冒頭で「夢なんてなかった」と話した守井社長が、今、膨らむ夢を生き生きと語っています。

若者に伝えたいのは、「最初からやりたいことが見つかる人はごく一部。夢がないから自分はダメだなんて考えないでほしい。世の中は広く、これから知ることのほうが多いですから」。大事なのは、うまくいかないときに環境や他人のせいにせず自分に何ができるか考えること。

「それこそが『ご縁のあるところで愛される』ということ。努力で、ピンチはチャンスに変えられます」。

愛されることで、力強く進化し続けるビック・ママ。
次なる挑戦が楽しみです!


針と糸をイメージしたシンプルなロゴマーク


洋服の種類や作業の難易度によって工房が分かれている


全国から集められお直しを待つ服。毎月約3万点ものアイテムが送られてくる


簡単なお直しから裾上げ、リメイクまで幅広く取り扱う(写真提供:ビック・ママ)

※こちらの記事は、2019年1月27日河北新報朝刊に掲載されました。

株式会社ビック・ママ

1993年設立。宮城県仙台市本社。衣料品のお直しの他、バック、靴、アクセサリーの修理を行う「ビック・ママ」を国内68店舗、海外に10店舗を展開。保育園、写真館など、さまざまな事業を行い「女性が生涯働ける職場」を目指している。 https://big-mama.co.jp/company/

撮影 Harty(澤田 千春)

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