バッグも靴も振袖も!一張羅こそ任せたい!
「匠」の本気クリーニング
人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”
1日合計1万点!
各地から集まる洗濯物


―― オートランドリータカノは「クリーニングタカノ」を運営する会社です。青と緑、ワイシャツをデザインした看板は、街のあちこちで見かけます。
今日は、工場を見学させていただけるとのこと、楽しみに参りました!
菅野弘美工場長(以下菅野) はい、こちらにどうぞ。
今日来ていただいたのは本社工場で、仙台市周辺を中心に、宮城県各地の店舗から集まってきた服をクリーニングしています。

―― 1日に、どれくらい洗うんですか?
菅野 ドライクリーニングの品で、だいたい1日4000点、ワイシャツはシーツなどの白物合わせて6000点です。
この他に、医療関係のクリーニングを専門で行う工場や、スポーツのユニフォームを洗う工場もあります。
―― そんなにたくさん! 洗濯機や乾燥機もいろいろな種類があるんですね。
もっとたくさんの人が働いていると思っていたのですが、工場内の服の運搬もオートメーション化されていて、本当に人の手が必要な部分だけ、スタッフの方が手を動かしている印象です
菅野 このフロアでは、ワイシャツなどのクリーニングが中心です。
シミ抜きや折り目加工などのオプションが付いていない服ですね。いわゆる「朝出して夕方受け取れる」品もここでクリーニングしています。
ワイシャツで大切なのは、襟やボタンのあるフロント部分、それと袖口のプレス(アイロンかけ)なので、そういう部分は、機械に任せながらも人の手で調整しています。
手技が光る
クリーニングの職人たち
―― 「『匠』クリーニング」というワンランク上のクリーニングがあると伺いました。詳しく教えてください
菅野 しつこいシミがある服や、注意して洗う必要がある服、大切な着物、革製品などをクリーニングしてよみがえらせるのが「匠」クリーニングです。そのために、当社にはさまざまなクリーニングの「職人」がいます。
例えばシミ抜きは、シミの種類が皮脂なのか化粧品なのか食品なのかで、使う薬品も処理の仕方も変わります。シミの状況や種類を見極めて、どうすれば元の状態に近づけられるか、というところに、「職人」の見立てと手技が必要なんです。
最近はいい薬品がいろいろ出ていますが、今もこういう、昔ながらの道具を使うことも多いんですよ。
―― 木の枝をまとめた道具ですか? 少し固めのホウキのような……

菅野 「ささら」という道具です。
これを優しく握ると繊細な素材にも使えるブラシのように、強く握るとゴシゴシ洗えるタワシのようになります。こういう道具を使って、手で布の感覚を感じながら洗うんです。
こっちの機械は、私が入社する前から使っている「オープンワッシャー」という洗濯機です。年代物ですが、洗いの強さを加減したり、様子を見たりできるので、今も注意が必要な品はこれで洗っています。
使い込んだ革も着物も
おろしたてのように
―― 菅野さんは、クリーニングを始めて何年になるのでしょうか?
菅野 40年ほどになります。数年間、和服を専門に洗う先生のところに修業にいったりしたこともありました。
着物をほどいて洗いなおす「洗い張り」はやっていませんが、訪問着、振袖、七五三の着物など、さまざまな着物・素材を扱っています。

―― すごい! クリーニングのプロなんですね
菅野 私以外のスタッフもそうですよ。革が専門の職人は、勤続15年以上になりますね。
「匠」クリーニングでは、革靴やバッグのクリーニングや修理も承ります。
色が落ちてしまった部分に色を乗せたり、ソールを変えたりしながら、新品に近いような風合いをだせるようにしています。例えば、こういうバッグも、かなりきれいに直せるんですよ。
―― ブランド物のバッグですね。外側の革や持ち手はまだまだきれいですが、内側の布の部分がボロボロに破けてしまっています
菅野 中は擦れますし、ビニールや化学繊維の布を使っていることもあるので、革より先に劣化してしまうんです。外側の革の部分はクリーニングして、内布を張り替えれば、まだ使えますよね。



―― 本当ですね。いいものを長く使うためには、しっかりとしたクリーニングが必要なんですね。
汚れや傷をきれいにするのに、こんなに「技」が必要なものだとは知りませんでした。
菅野さん、ありがとうございました!
では、「オートランドリータカノ」を創業した、髙野十社長にお話を伺います
服好きが高じて
クリーニングの道に

髙野十社長(以下髙野) 長く使うと言えば、今着ている服は、何年着ていますか?
―― 私のジャケットですか? ファストファッションのお店で今年の秋に買ったので、2カ月くらいでしょうか……
髙野 そうでしょう。今、世界的にカジュアル化が進んで、昔のように仕立てたスーツを長く着る人は少なくなってしまいました。
私のスーツは、もう40年着ているんですよ。
―― 40年! 生地にハリと艶があるし、まだ新品のように見えます
髙野 これは私が30歳の時の写真。10年ごとに同じスーツで撮影しているんです。
一生着る気持ちであつらえたスーツを、大事に、愛情込めて、労わって使っていく。夫婦と同じですね。そういうふうに服と付き合いたいものです。

―― クリーニングの事業を始めようと思ったきっかけは何だったんですか?
髙野 服が好きでね。学生のころから、服のメンテナンスは自分でやっていたんです。
服の一番いい状態は、いつだと思いますか?
実は、最初に買ったときなんです。洗濯をすると、服は傷んでしまうんですよ。
今でも高級ブランドの服なんかは、洗濯しないことを前提につくられています。昔のヨーロッパの貴族なんかも、カバーをかけたり、襟あてをつけたりしながら、汚さないように、最初の状態を崩さないように着ていました。そういう、本来洗っちゃいけない洋服を、職人の長年培った感性と感覚で新品の風合いに仕上げるのが匠の技。
創業した時の社員は4人だけでしたので、私も現場にいました。服を目の前にすると、いつもワクワクするんです。さて、この服をどうやって仕上げてやろうか、どんな洗いをして、シミ抜きはこう、プレスはこうだな、って。
タカノ品質を支える
スタッフの想い
―― 創業当時のその想いは、「匠」クリーニングにも通じるものがありますね
髙野 「匠」クリーニングに来る品は、どれも想いがこもっています。親の形見です、という服が来ることもあるし。
今も、洗う前と出荷前に菅野と一緒に確認するんです。これはきれいにできた、ここはもう少しやれそうだ、って。
そういうのが、タカノのクリーニングの品質を上げていくんだと思っています。
菅野は、東北で一番技術がある職人だと思いますよ。洋服は、立体的にできているので、プレスが難しい。
それを完璧にやるのは、菅野と私と、あともう一人の女性スタッフですね。
―― 工場を拝見しましたが、スタッフの方は女性が多いですね
髙野 工場で働いているスタッフは、社員のほかにアルバイトの人もいますが、うちで働いている人には隔たりなくクリーニングの技術を伝えています。
ワイシャツのプレスは、手できちんとやろうと思うと、かなり難しいのですが、しばらく働くとみんなできるようになってきますね。
スタッフにはいつも「自分の夫や子どもの服を洗っているんだと思ってね」と話しています。
やっぱり、スタッフ自身が、おもしろい、楽しいと感じながら、心を込めて洗わないと、質があがらない。どんなに機械化が進んでも、人の手でプレスしたりシミ抜きしたりすることで、質は格段に上がります。
「タカノさんだったら預けられるね」と、大切な服を任せていただけるように、これからもやっていきたいですね。
※こちらの記事は、2018年12月31日河北新報朝刊に掲載されました。
株式会社オートランドリータカノ
昭和40年創業。「朝出して夕方届く」スピードクリーニングの先駆けとして業績を伸ばし、現在は、仙台・東京に工場を構え、宮城県を中心に東日本各地に店舗を展開している。 靴やバッグのクリーニングを行う「『匠』クリーニング」の他、ふとんなどのリフォームなど、技術を活かした事業を行っている。 https://www.takanogroup.co.jp
撮影 三塚比呂