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美術家・青野文昭さんに聞く「仙台、森、美術」

仙台を活動の拠点とし、国内外で展示を行っている美術家・青野文昭さん。そんな青野さんに、仙台での生活と美術制作の関わり方や、仙台の環境が自身に与えた影響などについてお聞きしました。

Nov 29, 2018


個展展示風景 (ギャラリーαM) 2015 (撮影・木奥恵三)
 

身のまわりにあった「森」

 
道端などに捨てられたものを収拾し、その欠けている部分を「なおす」という行為を軸に作品を制作している美術家の青野文昭さん。
青野さんにとって「なおす」とはどういった意味をもつのでしょうか。青野さんの筆による『修復論』には、次のように記されています。
 
「私はこの数年来『なおす』といういとなみの様々な意義に興味を持ってきた。その発端は近所のコンクリート壁で見かけた壁の修復跡に目が止まった時からであった。ワレた穴やヒビに新しいコンクリートブロックやセメントが無造作に埋め込まれているもので、何かとても人間臭いナマナマしさを感じたのだった。(中略)『なおすこと』そしてその『痕跡』には、人間の感覚や精神に働きかける何か重要なものがあるのではないか」〈修復論
 
青野さんはこれまでに、延長、復元、集積、代用合体、連関などの方法を用いて、修復、「なおす」行為によって主に作品を制作し、国内外のさまざまな美術館、ギャラリー、アートフェスティバルで展示を行ってきました。そんな青野さんは生まれも育ちも仙台。宮城教育大学大学院修了後、現在に至るまで仙台を拠点に制作に取り組んでいます。
 

『あいちトリエンナーレ2013』会場より
なおす・代用・合体・侵入・連置(震災後東松島で収集した車の復元)2013-1

 
「生まれ育ちは八木山の団地の方なんです。3、4歳くらいから、動物園の裏とか、八木山の中でも端っこのほうばかり歩く癖があって。町と町の間が森になっていて、自然と町の境界というか、そういう場所が好きでした」
 

 
2017年度せんだいメディアテークで行われたグループ展のカタログ本『コンニチハ技術トシテノ美術』(T&M Projects、2018)では、「あなたの作家活動に関わると思われる原風景や原体験について教えてください」というアンケートに、「身のまわりの―東北の森」と答えています。
 
「宮城教育大学の卒業制作のテーマも『森』です。その頃は『自然』というよりも『森』ということで、緑を塗ると失敗すると思ったので、緑色を使わないで生き物がうごめいている感じの抽象画を描きました。実物の木を使っても制作しましたね」
 

(左)森―鳥居 1990 (右)森―2 1990
 

(左)木の再生 1991 (右)森の再生 1991
 
「なので、自分で言うのもなんですけど、学生の時にこの辺の自然と絆を深めてしまったために、いまだにそれが続いてる状態です(笑)。これまで滞在制作を沖縄や韓国などでやりましたけど、いずれも短期でしたからね。他の場所で自分が制作できるのかどうか、不安です(笑)。大学卒業後、地元を離れるという話もあったんですけど、それは直前で取りやめになりました。そのとき、これまで制作してきた自然から離れるのが辛かったので、自分と地元の環境はちょっとはつながっているのかなと思います」
 

この場所からまだ生まれていない作品

 
青野さんは大学卒業、作品を置く倉庫を奥新川に構えます。その後、アトリエとして整備し、現在作品制作は主にその川沿いの森の中のアトリエで行われています。
 

 
「新川は川上の方に誰も住んでいないので、澄んだ空気が川上から流れてきて、良い感じがするんです。自分は人が住んでいる境界の端にいて、向こう側から人と関係のないものが流れてくる感じで。結局、作品に直結するのは狭いエリアでの感覚なのかなと思います。自分が生まれたのは八木山で、大学も青葉山。アトリエがある新川も、広瀬川の源流なんですよね。非常に限られた場所を移動している感じですね(笑)」
 

 

 
そのように仙台で制作を続ける中で、自分が身を置いている環境と美術との関わりをどのように考えているのか、尋ねました。
 
「僕はそんなに『東北』ってことを出しているような作風ではないですし、作品名には(修復の素材となった)物を拾った場所を名付けたりしていますけど、風土性が強い作品をつくっているわけではありません。ただ、学生の時も思いましたし、今も思うんですけど、奥羽山脈といいますか、東日本の落葉広葉樹の山から生まれたアート作品を見たことがないんです。正直なところ、地元を描いている絵で、日本画でも洋画でも、これは自分にとって大事だな、アイデンティティになりえるなと思えるものがなかなかなくて。青森だと例えば棟方志功の作品とかありますけどね。でも、この辺の自然を描いているものを見ても、僕の知っているものと違うなと感じます。なので弱気になると、まだこの場所から作品が生まれていないんじゃないか、そこには自分がやる余地があるんじゃないかと思うんです。それで今まで続けてこれたという感じもあります」
 

なおす・代用・合体・連置「震災後亘理で収集した御椀、徳利、酒瓶の復元(回向するかたち)」
2014~2015-1,2,3 (撮影・小岩勉)

 

表現はどこでも生まれる可能性がある

 
仙台で制作を行うことについて、このようなひと言も。
 
「結局、美術をやる人は美大がある町に集まったりしますよね。もちろんそれが気に入っていればいいんですけれど。でも表現というのは、人がいればどこでも生まれるはずのもの。だから、仙台でも生まれるべき作品があるし、それをまだ見たことがないので、自分がつくる意味があると思っています」
 
これまでお伺いしてきたように、八木山で生まれ育ち、現在も山の中で制作をする青野さん。しかし、いわゆる山歩きのようなことはしないそうです。
 
「山の中に入って歩くことは、以前はしていましたよ。でもアウトドア用の服を着て靴を履いて……とかじゃなくて、町中を歩いているときの格好のままで入っていく主義なので(笑)。だから岩山とか登るわけじゃないんです。でも普段自分が身を置いているのはそういう自然ですよね。日本アルプスの過酷な自然ではなくて、田んぼのある里山でもなくて、渓流があって、奥羽山脈につながっている山のあたり。それがなんとなく気に入っているんです」
 
取材の終わり際、「土地と関係しているという意味では農業に近いのかもしれない」とふとこぼした青野さん。
 
青野さんは2018年12月に仙台で個展『人のおもかげ―いろいろな靴より』 2018〜2019』(2018年12月19日〜2019年1月13日、仙台・ギャラリー ターンアラウンド)を開催。翌年には、『六本木クロッシング2019展:つないでみる』(2019年2月9日~5月26日、東京・森美術館)への出展が決まっています。機会があればぜひ足を運んでみてください。
 

取材は個展を開催するなど青野さんとゆかりのあるギャラリー ターンアラウンドで行いました
 
 
展覧会「⻘野⽂昭 ものの, ねむり, 越路⼭, こえ」開催(※展覧会は終了しました)
 
会期 
2019年11月2日(土)~2020年1月12日(日)
時間 
11:00~20:00(入場は19:30まで)
※11月28日は休館、12月29日から1月3日は年末年始休館(最終日は15:00まで) 
会場 
せんだいメディアテーク 6階ギャラリー4200
(仙台市青葉区春日町2−1)
https://www.smt.jp/projects/aono_ten/
 

 

青野文昭(あおの・ふみあき)

  1968年仙台市生まれ。宮城教育大学大学院美術教育科修了。1999年、宮城県芸術選奨・新人賞(洋画)。2005年、宮城県芸術選奨(彫刻)。2013年、ヴァーモントスタジオセンターフェローシップ(Vermont Studio Center Fellowships for Artists and Writers アメリカ・VSC)。2015年度公益信託タカシマヤ文化基金・第26回タカシマヤ美術賞受賞。 近年の主な展覧会に「青野文昭 個展」(gallery TURNAROUND、2016)、「コンサベーション_ピース ここからむこうへ part A 青野文昭展」(武蔵野市立吉祥寺美術館、2017)、「コンニチハ技術トシテノ美術」(せんだいメディアテーク、2017)など。 http://www1.odn.ne.jp/aono-fumiaki/

 
撮影 三塚比呂
 

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