人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”
異業種間コラボで街の使い方を変える!
街なかを笑顔でいっぱいに「ワクワク仕掛け人」が駆ける
「外にいるのが大好き」と話す勝又さん。「歩道のベンチでコーヒーを飲んでて、居合わせた人と仲良くなるなんて、いいと思いません?」
現状に危機感
「今までにないことを」
地元・仙台の大学を出て東京で不動産業に就いた勝又さんが、家業であるアイショウに入ったのは2011年1月、25歳のとき。直後に東日本大震災が起きました。
それまで空室率が5割ほどあった所有ビルが、震災後一気に満室になり、賃貸物件も急速に埋まったそう。
「安堵感より、この波が引いたらどうなってしまうのか、と怖くなりました」。
仙台圏の本来の経済力と、今後予想される人口減を冷静に分析し、業界の将来に危機感を抱いた勝又さん。「今までにないことをしなければ」と奮起します。
屋上や軒先、ビル壁といった空きスペースを自社で活用しよう、離島を貸し切るパーティはどうだ、ユニークなゲストハウスを作ろうか…アイデアは湧くものの、法規制などさまざまなハードルがあり実現は遠く思えたそう。
そこで勝又さんがしたのは、業種も年齢も問わず“とにかく人に会う”こと。
「父親ほどの年齢の人しかいない会合にも、『ここに行けば目立つかな』と下心つきで」飛び込んだとか。会う人会う人に夢を語っては「それ、面白いね」と可愛がられ、業種を超えた視点や考え方を学びました。
まちづくりの視点に学ぶ
「点から線、さらに面へ」
人脈は広がるものの突破口が見つからず暗中模索していたところに、仙台市が開く「せんだいリノベーションまちづくり」のスクールへ誘いがかかりました。
公共空間や民間不動産の利活用によって都市部に賑わいを生み出す、近年全国的に広まっている取り組みです。
当初はあまり興味がなく、「自分にプラスになるのか」と半信半疑だった勝又さんですが、受講生が市街地の公園で開いたイベントに大きな可能性を感じたといいます。それは、補助金を受けずに収益を上げる仕組みが見事に機能していたから。
「地域への波及効果を生みつつ、事業として成り立っていた。面白い、と思いました」。
スクールをきっかけに海外視察をするなどまちづくりに関心を深め、見識を広めた勝又さん。学ぶほどに、本業のビル開発とまちづくりの関係性が見えてきたそう。
特に「点(核となるスポット)をつなげて線(ストリート)にし、面(まち)へ展開する」という考え方は、ビル開発にも通じ、ふに落ちたとか。
「ビル内のテナント構成も、エリア内でのビル展開も、“点”だけで考えてはダメ。“面”を的確に捉えないと。社長である父がいつも言うことです」。
また、まちづくりの成功例の視察では、「エリアの魅力を高めることが不動産の価値につながる」と実感。これらの学びを原点に、勝又さんの「街をワクワクさせる活動」が始まりました。
「パブリックを開放」
その真意とは
その一つが、2017年に設立したセンダイディベロップメントコミッション株式会社(SDC)です。まちづくりに関わる多業種のメンバーが集まり、学生もインターンとして参加。勝又さんは取締役を務めます。
街の賑わいを生み出す事業やコンサルティングを業務とし、コンセプトは「パブリックを開放する」。でも“パブリック”、つまり“公共”のものは、そもそも街に住む人に開放されているのでは…? 「そのはずですよね、でも公園などの公共空間って実はあまり使われていないと思いませんか」と勝又さん。「自由に使える“真のパブリック”にしたいんです」。
青葉区の肴町公園でワークショップや絵本図書館を開いた「DAYOUT!!」(写真①)、定禅寺通りに東北のコーヒー専門店が集結した「TOHOKU COFFEE STAND FES」(写真②・⑤)などを成功させ、現在はこれらを含め7つの催しを「GREEN LOOP SENDAI」として展開。大人気イベントに成長し、市民がドリンク片手に気ままな街歩きを楽しむ光景が定着しました。また仙台市の委託事業として、東北の魅力を発信する木造施設「LIVE+RALLYPARK.(ライブラリーパーク)」(写真③)を勾当台公園に期間限定で運営し、好評を得たのも、記憶に新しいところ。
①DAYOUT!!(写真提供:SDC)
②TOHOKU COFFEE STAND FES 「街の庭師」のメンバーの一人である伊奈 伸介さん(写真提供:SDC)
③LIVE + RALLY PARK.(写真提供:SDC)
④アイショウがビル屋上で運営するレンタルスペース「The Roof Sendai」(写真提供:アイショウ)
⑤出店者との会話も楽しいコーヒーフェス。有名店の飲み比べができると好評だ(写真提供:SDC)
SDCの活動は、イベントの集客だけでなく、街を回遊する人口を増やし日常の賑わいを生むことが目的です。肴町公園では、イベントで喜ばれた絵本棚を、市との協議を経て常設化(写真⑥)。いつでも読んだり借りたりできるため、最近では保育所の散歩コースにもなっているとか。
「いつも人々が外に出て笑顔で行き交っているのが、僕の考える“いい街”。眠っている“パブリック”を起こして街の使い方を広げたい」と、目を輝かせます。
⑥肴町公園に常設した絵本棚。絵本を寄贈してくれる人もあるという
プロ集団が作り出す
居心地いい空間
もう一つの顔は、杜の都らしく緑を使って地域を活性化するプロ集団「街の庭師」(写真⑦)。メンバーはフローリスト、建築家、グラフィックデザイナー、シェフと、不動産業である勝又さんの5人。それぞれが専門のスキルを持ち寄り「庭から街を整える」をコンセプトに活動しています。
外構リニューアルを手掛けた青葉区のビルを見たいとお願いすると、他のメンバーも駆けつけてくれました。元は殺風景だったビル間の暗い路地が、植栽やベンチを配置し開放感のある居心地いい空間に。空中に飾られたガーランド(布のディスプレイ)や道路に面したアーチ(将来は見事なバラのアーチに!)は、通りすがりの人を誘うかのよう。
⑤出店者との会話も楽しいコーヒーフェス。有名店の飲み比べができると好評だ
「街の庭師」が外構を手掛けたビル。空調設備や配管がむき出しでいかにも裏口といった感じのリニューアル前(左)。木製の目隠しとバラのアーチを施し、見違えるほど美しく生まれ変わった(右)
「このメンバーだからやりたいことができる」と勝又さん。それぞれが本業を持ち、普段は自分のフィールドで腕を磨き、感度の鋭いアンテナを張っておく。ここぞというときに集まり、力を合わせる——このカッコよさは、まるで一流ミュージシャンのセッション。「いやいや、普段はバカなことばっかりしゃべっていますよ」「ボツになった企画は数え切れない」とメンバーの軽口が盛り上がると、リーダーでシェフの佐藤良さんが「みんな個性が強いけど目指すものが同じで軸がブレない。だから続くんじゃないかな」とまとめてくれました。
⑦「街の庭師」メンバー。左から川上謙さん、佐藤良さん、勝又さん、山田剛さん。会話に笑いが絶えない
「街の庭師」リーダー・佐藤良(りょう)さん
シェフ
仙台市が開いた「せんだいリノベーションまちづくりスクール」をきっかけに、一緒に活動したい人に声をかけてチームを作りました。リノベーションまちづくりは、一つ一つの建物よりもその周辺をリノベーションすることで、街全体を豊かに楽しくしようという考え方。われわれは、主に緑や花を活用したまちづくりを提案しています。
枠にとらわれず、自らも面白がりながら活動するのがモットー。業種の異なるメンバーが集まると刺激的だし、アイデアに幅が生まれます。これから何かを始めたい人のためにも、「街でこんなこともできるよ」という道を切り拓いていきたいです。
山田剛(たけし)さん
フローリスト
仙台を花と緑のあふれる街にするのが夢。個人でもチームでも、その思いをベースに活動しています。花は人を癒す力があり、平和の象徴でもある。訪れる人が花に癒され、温かな気持ちを地元に持ち帰ってもらえるような街にしたいです。
最近、まちづくりの動きが市民から多く生まれています。新しいことに挑戦する人が増え、横のつながりも広がってきました。30~40代の自分たちは、若者にも先輩世代にもアプローチできる世代。いろいろな人を巻き込んで活動を広げたいですね。
川上謙(けん)さん
建築家、リノベーションディレクター
関東地方出身で山形市の大学に通い、仙台へ来て8年目。仙台の財産は「人」だと思います。スキルが高く面白い人がたくさんいるし、彼らと一緒に仕事ができることがとても楽しいです。
地元で根を張る僕たちには、大都市から入ってくる大資本にはない強みがある。対立するのではなく、互いを生かし合ってまちづくりを進めれば面白くなると思います。
伊奈伸介さん
コーヒー屋(ロースター)、グラフィックデザイナー
仙台は海も山も中心部から近く、コンパクトな街。気候もちょうど良く、物も一通り揃っているので暮らしやすいと思います。でもオススメのスポットを聞かれると、なかなか出てこない。「街の庭師」として活動をすることで、今まで何気なく歩いていた道や建物を、ここをもっとこうしたら面白いんじゃないか、と思うようになりました。そのような視点を持って、エリアごとをプロデュースし、新たな観光スポットを作れたら、最高に面白いんじゃないかな、と思っています。
今、仙台が熱い!
まちづくりの流れを育てよう
「まちづくりの活動が自社の利益に直結するとは考えていない」と話す勝又さん。それでも熱心に取り組むのは「街が面白くなれば、関係人口が増えて街の価値が上がり、結果的に不動産を含めた仙台の商売が潤う」と考えるから。「だから、今仙台に起きているまちづくりの熱気を冷ましたくない」と力強く言い切ります。
本業では、新しいタイプの賃貸情報ポータルサイトを構想中。ライフスタイルや趣味に合わせてリノベーションできる住まいなどを紹介するといい、「暮らしをデザインする需要を掘り起こし、住宅関連業界全体を活気づけたい」と話します。地元の同業他社と共同での運用を目指すそう。「大手に負けないためには、地域密着性と独自性を打ち出さなければ」と語る表情に、家業を担っていく責任感がにじみます。
不動産業とまちづくり活動を両輪に疾走する勝又さん。「先輩方や仲間に恵まれてやってこられた」と何度も口にしました。仲間とともに次は何を仕掛けるのか、ぜひ注目を。
SDCの活動に関わりのあるお二人にお話を伺いました!
豊島聡さん
SDC INC. ディレクター
東北工業大に在籍中、研究室の活動の一環として「せんだいリノベーションまちづくり」に参加したのをきっかけに、関わるようになりました。大学では建築学を専攻し、まちづくりに関して理論的には理解していましたが、実践現場のリアルなスピード感や事業性に大きく刺激を受けました。多様な視点からのまちづくりの議論を聞くのも、とても面白く、大学の授業だけでは得られない貴重な経験でした。
現在はSDCで働いています。主に会社のプランのもとに活動していますが、もっと勉強して自分で地域の課題を掘り起こし、事業として解決に導けるようになりたいです。
佐藤優作さん
東北工業大学ライフデザイン学部安全安心生活デザイン学科3年
せんだいリノベーションまちづくり実行委員会 学生事務局長
公園や軒先、歩行空間にファニチャー(家具)を設置することで、人が集まる空間と豊かな日常の風景の創出をしようと、「Street furniture project」を立ち上げました。最初は大学主体で実施し、その後、個人として GREEN LOOP SENDAI に参加する形でプロジェクトを継続しました。
「新しくファニチャーを作りたい」と思っても、チームを結成してアイデアを出し、設計、材料調達、予算回収など、決められた期間内にしなければならないことが多く、現場の厳しさを知りました。その中でも、地元企業とのご縁があったり、製作方法を学んだりできたことは収穫です。頭で考えるだけでなく、実際に動くことの大切さを実感しました。
大学で学んだ知識やスキルを実践で生かせるのは充実感があるし、新たな学びも得られます。自分が設計したものを形にする楽しさを、これからも広めていきたいです。
※こちらの記事は、2019年6月30日河北新報朝刊に掲載されました。
株式会社アイショウ
1981年設立。仙台に拠点を置く不動産会社。不動産販売・不動産コンサルティング・ビル再生などを手掛ける。 http://aisho.co.jp
センダイディベロップメントコミッション株式会社
2017年設立。仙台を拠点に、街中に賑わいを創出するイベントなどを運営している。http://sdcinc.jp
撮影 Harty(川島啓司 ・ 朝倉佳苗)