タイトル画像は今年のBook!Book!Sendaiのフライヤー。イラストは松下さちこさんによるもの
そもそもZINEって?
この10年ほど、ウェブや雑誌などでZINEという言葉を見ることが増えました。媒体によっては、アーティストがつくるアーティストブックや、おしゃれな雑誌のこともZINEと呼んでいることがありますが、果たしてそうなのでしょうか。
2017年11月に発行された、ばるぼら、野中モモ・編著『日本のZINEについて知っていることすべて 同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960~2010年代』(誠文堂新光社)は、これまでの自主制作出版の歴史を紹介するZINEの水先案内人となる一冊です。
本書では、ZINEを「インディペンデントで、独立した、『誰にも頼まれていないけど自分が作りたいから作る自主的な出版物』」として、音楽、サブカルチャー、漫画、政治、デザイン、文芸……といったあらゆるジャンルでつくられてきた自主制作出版物を「ZINE」として紹介しています。
野中モモ・編著『日本のZINEについて知っていることすべて
同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960~2010年代』(誠文堂新光社)
ページをめくると、合計600冊以上のさまざまなZINEの表紙画像と解説が掲載されており、また関係者インタビュー、年表などから、多角的にZINEとそれを取り巻く文化、時代を知ることができます。
消費者から発信者へ
6月14日(木)から7月16日(月)にかけて、多賀城市立図書館3階ギャラリーを会場に、「trip to zine ~zineへの旅~」展を行った『Book! Book! Sendai』(以下、B!B!S)。
B!B!Sは2009年から15年までの間、「6月の仙台は本の月」をキャッチフレーズとして、毎年6月に一箱古本市やトークイベント、講座などを行ってきました。
また2013年から15年にかけては、せんだいメディアテーク発行の仙台・宮城の出来事をノンジャンルに並べたフリーペーパー『Dairy』の、責任編集をB!B!Sが行いました。
2016年、17年度は東日本大震災に誕生した本と出会えるスペースを訪ね、インタビューを続けました。
震災後に誕生した“本と出会えるスペース”を訪ねるインタビューシリーズ
http://bookbooksendai.com/?p=1714
このような多彩な活動を行ってきたB!B!S、今回はどうしてZINEを取り上げたのでしょうか。B!B!S発足からのメンバーで、ZINE展の企画者である前野久美子さん(book cafe 火星の庭)に話を伺いました。
『日本のZINEについて~』を読んだとき、一つ一つはささやかだけど、膨大なZINEの連なりを見せられてショックを受けました。同時に自分が90年代にミニコミ(注・60年代に広まった自主制作出版物の呼称)をつくった時のことを思い出したんですね。
本に対して消費者、読者だったところから、発信者に転換したのがミニコミをつくった時だったんです。(つくってた時は)誰かに受けるかどうかなんかて考えていなかったですが、とにかくつくること自体が楽しかった! その、本と自分の関係性ががらっと変わった瞬間のことが頭をよぎって、その体験を引き起こしたいと思ってZINE展をしようと決めました。
個人的にはB!B!Sを10年やってきて、20数年前の自分と本の関係性が変わった地点に戻ったという気もしています。私は普段本屋をやっていますが、そこで扱っている商業出版と比べるのは無理がある気がして、商業出版とZINEを対立させて考えていません。レストランで食べる料理と家庭の料理を比べて優劣をつけることに意味がないような感じといえばいいでしょうか。どちらも活発になってほしいです。
また、SNSがあり、AI、VRが身近に迫る、拡張し続ける世界においてZINEの、ある種届ける範囲を限定させている部分に魅力を感じますし、どんなに過激なことが書いてあっても手に持てば軽い。武器、兵器じゃなくて紙じゃないですか。その優しさ、見た目のつつましさが素晴らしいと思ってます。 (前野さん)
このような思いを基に行われた多賀城市立図書館の展示では、『日本のZINEについて~』に掲載された1960年代~2010年代現在までに発行されたZINEを中心に、世界のストリートペーパー、地元のさまざまな方や盛岡の『Cyg art gallery』の協力を得て集められた、東北でつくられたZINEなどを展示。
また「zineをつくる道具」コーナーではタイプライター、謄写版、ワープロなど個人でZINEをつくる手段の移り変わりが見て取ることができます。
一冊一冊のZINEはパネルに入っていて手に取ることはできませんが(例外あり)、その中にどのようなことが書かれているのか想像し、自分だったらこうつくる、こんなことを書く、こんなZINEをつくる――。展示を見ているうちに、ZINEをつくる導火線に火がつくような構成になっています。
これまでのZINE、これからのZINE
6月23日(土)、多賀城市立図書館本館1階住まいの部屋を会場に、『日本のZINEについて~』著者のばるぼらさん、野中モモさんによるトークイベント「日本のzineについて100分で話すことすべて」が行われました。
ばるぼら
ネットワーカー、古雑誌蒐集家、周辺文化研究家。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)、『NYLON100%』『岡崎京子の研究』(共にアスペクト)、赤田祐一との共著で『消されたマンガ』(鉄人社)、『20世紀エディトリアル・オデッセイ』(誠文堂新光社)がある。
野中モモ
文筆・翻訳業。オンライン書店「Lilmag」店主。著書に『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)。訳書にレイチェル・イグノトフスキー『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)、ダナ・ボイド『つながりっぱなしの日常を生きるーソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』(草思社)、アリスン・ビーブマイヤー『ガール・ジン「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』(太田出版)など。
トークでは、ZINEの語源や誕生とその後の展開を解説する中で、お二人からは「ZINEは誰でもつくれるもの。人に伝えたいから「だけ」じゃなくて、つくることで考えがまとまっていく側面もある」といった言葉がありました。
また、70年代に漫画同人誌が印刷所の数を増やし、印刷費を下げたことが80年代以降の自主制作出版物の基盤になっていることについて述べ、お互いに交流がないジャンルであってもインフラ、制作基盤の上で影響し合っていることを指摘する場面も。
当日はゲストの野中さんが営むオンライン書店『Lilmag』、盛岡の『Cyg art gallery』、東京・中野にある自主制作物を扱うショップ『タコシェ』によるZINEの出張販売も行われ、トーク終盤には、『タコシェ』店主・中山亜弓さん秘蔵のコレクションも披露。ZINEの魅力をたっぷりと味わった100分間となりました。
手渡し、郵便、ショップなどを通して流通するZINEという媒体は、手軽だからこそ手紙のようにプライベートなことも記せ、自分の声、考えを公にすることのできる可能性に満ちています。何か人に伝えようと思っているけれど、どんな方法がいいのか分からない人、どんな形にしたらいいのか分からないけれど何かしたい、と思っている人はぜひこの展示に足を運び、『日本のZINEについて~』を一読してみてください。そこには過去からのヒントと、これからできることのアイデアが凝縮されています。
なお、「trip to zine ~zineへの旅~」展では会期中、自分のつくったZINEを持参いただければ、会場で展示をします。この機会に自分のZINEを見てほしい! という方は是非お持ちください。
「trip to zine ~zineへの旅~」展
-1960年代から現在までの日本のzine-
日時 2018年6月14日(木)~7月16日(月) 時間 9:00-21:30 年中無休 会場 多賀城市立図書館 3階ギャラリー (多賀城市中央2丁目4-3 多賀城駅北ビルA棟) お問い合わせ 電話 022-368-6226
Book! Book! Sendai
本の魅力、読書をする時間の大切さを考え、伝えていくことを目的に、仙台の本好きなメンバー10人が集まり、2008年から活動を続けている。 http://bookbooksendai.com/