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第十六回 「おゆき」

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宮城看板放浪記
第十六回 「おゆき」

 古き良き宮城の街並みをかたちづくっていた証。それは看板!古くなるほど愛しさつのる。ライターりりっくれおなるどが、看板の声に耳を傾け一句したためる。今日も看板を求めさまよう、みちのく一人旅。今回訪れたのは、青葉区国分町二丁目にある餃子専門店「おゆき」。

Feb 14, 2020   

 夜の定禅寺通り。杜の都仙台のシンボル・ケヤキ並木を通り抜けながら西公園に向かって歩く。ビルの窓には街灯に照らされたケヤキ並木が映し出されている。細い路地に入って少し歩くと、国分町の賑わしい景色が目に飛び込む。そのまま広瀬通側に進むと稲荷小路に差し掛かり、赤い看板が見えてくる。


 
 「おゆき」という店名が、赤色に黒でシンプルに書かれている看板は、国分町というきらびやかな歓楽街の中でお客さんの目を引くように、開店当初から赤い色を用いていたという。
 餃子の「おゆき」は今の親方で三代目。
餃子屋さんだと思って入ったのに、看板商品にはおでんもあるのだという。
おでんと餃子? 私は不思議に思った。

40年以上使われている手書きの読み札のような木製のメニュー版。看板メニューは、餃子とおでん。2つだけなのが潔い。餃子が大好物というお客さんはもちろん、飲んだ帰りにテールスープだけ飲みにくる方がいたり、それぞれのお客さんなりの楽しみ方がある

 戦後間もなく創業し、初代の親方は、今の親方のお祖父さんにあたるそうだ。夜の街にくっきり映える赤い看板を見て、吸い込まれるように入った餃子屋さんだったけど、思いきって話を伺ってみたところ、驚くくらい素敵な物語があった。
 
 なんと「おゆき」は、はじめはおでん屋だった。

店を切り盛りしていたのは今の親方のお祖母さん。おゆきという店の名前は、お祖母さんである初代おかみさんの名前「ゆき」にちなんだのだという。今と同じ場所で女手一つでお店を開いていた。
 その頃、国分町には、屋台を営む飲食店が多かったという。初代親方にあたるお祖父さん以外にも、超有名なおでん屋のご主人に、元祖牛タン屋のご主人、名前を伺っただけでびっくりするようなあの老舗の創業者も屋台を引いていたと聞き驚いた。おゆきの初代親方も屋台を引きながら餃子を販売していた。たまたま餃子の屋台に通うようなった初代おかみさんは、黙々と餃子を焼く初代親方に惚れてしまったそうだ。そして、結婚したらおでんと餃子を出せる、なんてことを考え、結婚に至った。聞いただけで胸が躍る。

「餃子屋とおでん屋が、結婚したら面白い。お酒が好きな祖母は、お酒を飲まない男性を探していた。祖父はお酒を全く飲まないから全て理想通りだったんです。」

 創業当時は戦後すぐ。世の中はゼロから沢山のものを作り出すエネルギーに満ちていた時代。ゆきさんのポジティブな発想で、今の餃子専門店「おゆき」が誕生した。

店内は1人でも入りやすい。ふらっと食べて帰る方もいれば、ゆっくりと親方やおかみさんとの会話を楽しむ方もいる

 「親方が餃子を作り、おかみさんがおでんを作るスタイル」は、初代親方夫婦がはじめた。初代親方夫婦に息子が誕生し、その息子は「おゆき」の二代目親方になった。二代目夫婦に代替わりした時、「親方が餃子を作り、おかみさんがおでんを作るスタイル」が受け継がれた。二代目親方が結婚し、今の親方が生まれ、また家族が増えた。しかし、今の親方が15歳の時、二代目親方が亡くなった。それからすぐに、初代親方の下について餃子の事を学んだ。餃子の作り方を学ぶのはもちろん努力したが、老舗の味を完全に受け継ぐことは難しいのだという。試行錯誤して今の親方なりの餃子が完成した。

 「おゆき」は創業から73年目に入り、厨房では今の親方が餃子を、今のおかみさんがおでんを作っている。
三代の夫婦が、代々同じスタイルで店を切り盛りしているのだ。
お互いが得意なものを作って提供する、ベストな部分を発揮して補い合っている、そんな優しい夫婦の姿がずっとある。

「餃子を作るのは親方に敵わないから、自宅で、変わり種餃子を作るんです。具材を変えたりね」そんな風に話す今のおかみさんの笑顔はとってもチャーミング。

初代親方と初代のおかみさん(写真右)。結婚してすぐに餃子とおでんの店を開業

40年前の「おゆき」。中央にいらっしゃる松田優作似の男性が二代目の親方。隣りは二代目のおかみさん

35年程前。中央の男の子が今の親方。ピンクのスカートを履かれた女性が二代目のおかみさん

創業から同じ作り方、同じ材料のスタンダードな餃子。常連さんいわく「ニンニクも遠慮がなくてガッツリ美味い!」1日1,000個は作るという

おでんも創業から変わらない。お出汁は創業から約70年注ぎ足したもの。何十年も朝と晩に火を通し風味を失わないよう守り続けている。今の親方いわく、これが一番の財産。おでんの種は10種以上

「テールスープがある餃子屋はうちだけかも」初代親方が屋台を引いていた頃の仲間が牛タン屋さんだったからか、「おゆき」の餃子定食にはテールスープも付く

緑茶で炊いている茶飯。白飯もいいけど、お茶の香りが上品な味を醸し出す


店名
おゆき

業種 
餃子専門店

創業年
1947 (昭和22)年
昭和21年に公布された日本国憲法が施行。
ビートたけしが生まれる。
ヘンリー・フォンダ主演の『荒野の決闘』が日本公開。

看板制作年
看板と暖簾共に、約20年前(20年程のスパンで看板を交換)

制作者
町の看板屋さん
歓楽街の明るさに引けをとらぬよう赤色で目立つ看板にした。

素材
プラスチック

自慢できること
祖父と父から引き継いだ餃子屋を守り続けていること。

看板メニュー
餃子
おでん


ここで一句

お稲荷さん見守り続ける歓楽街
餃子とおでんが恋をした
餃子のおゆきと申します
一度食べたらまた来たい
おゆきの餃子はそんな味

豊川稲荷神社のお稲荷さんが見守り続ける稲荷小路。餃子屋とおでん屋が恋に落ち、夫婦になって新しい店を開いた。名前は「おゆき」。夫婦2人で力を合わせ切り盛りするお店の餃子は絶品だ。
 
明日も看板を求め、みちのく一人旅はつづく。
 

おゆき

住所   仙台市青葉区国分町2丁目1-26 電話番号 022-223-1998 営業時間 17:00〜23:00       ※無くなり次第終了 定休日  日曜・祝日
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