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第十五回 「コーナーハウス」

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宮城看板放浪記
第十五回 「コーナーハウス」

 古き良き宮城の街並みをかたちづくっていた証。それは看板! 古くなるほど愛しさつのる。ライターりりっくれおなるどが、看板の声に耳を傾け一句したためる。今日も看板を求めさまよう、みちのく一人旅。今回訪れたのは、青葉区大町にある喫茶店の「コーナーハウス」。

Dec 22, 2019   

 日本銀行仙台支店を左手にして、かつて城下の中心となった交差点「芭蕉の辻」の石碑を通り抜けると、肴町公園を見通せる2つの喫茶店がある。前回、ご紹介した“もじゃもじゃ”な店構えが印象的な「道玄坂」と同様、もう一軒の“もじゃもじゃ”なかっこいいお店がある。
 喫茶店の「コーナーハウス」だ。「道玄坂」と「コーナーハウス」は対角線上に向かい合っていて、どちらも店先の緑が目に優しい。

 「コーナーハウス」は大きな窓が印象的だ。お店の入り口には草花が生い茂り、ツタの他、季節の花にも彩られている。草花はオーナーの土井さんが植えて育てている。

 草花の間に所々に見えている看板に目をやると、なんだか肩の力が抜けるようでほっとする。この看板はすべて土井さんの手作り。読みやすさだけを考えてつくったという看板の文字は、ビニールテープを丁度良い長さに切り、貼り付けたもの。下書きをしたり、長さを測ったりしていないという独特のゆるいタッチがたまらない。デジタルで描けない手描きの味わいがたまらない独特のフォントが印象的だ。

 「コーナーハウス」の名前は、喫茶店を始めようとした時には決めており、名前が示す通り角にある物件を探し続け、角にあるこの物件が空いていた時にすぐに入居を決めたという。
 コーナーハウスが入居しているビルは築40年は経っていて、真新しい完璧な建物より、少し年寄りなそのビルに勝手に親近感を覚えてしまう。

 店内に入ると、肴町公園や道行く人をのんびりと眺められる大きな窓がすぐに目に入る。

 この大きな窓は、コーナーハウスの窓になる前は、日本酒専門の居酒屋の窓だったそうだ。棚を退けてみたところ、大きな窓が出てきた。少しずつ片付ける中でお客さんの居心地の良い空間はつくられていったようだ。

写真左上、通りから見たお店の窓をイメージして描かれた絵は、ずっとここに飾られている。この絵があることで、お店の中にいても外から窓を眺めたような新鮮な気持ちになる。だからなのか、こじんまりとした店内も窮屈に感じられない

 土井さんは奥様と2人でお店を切り盛りしている。おふたりはとても穏やかで、お客さんに話しかけられると、丁寧に耳を傾け、どんなに忙しくてもお客さんをドアの外までお見送りしてくれる。お客さんに居心地の良い場所と時間を提供したいという想いは隅々まで行き届いている。常連のお客さんは、コーナーハウスの良さは夫婦の作り出す空気と時空間だと教えてくださった。

 「スナック&喫茶」という言葉で土井さんは表現してくださったが、たしかに置いてある家具も、アンティーク調で少しくすんだ落ち着いた色合いで、それが大人びた空間を作り出し、まるで昭和のスナックみたいな懐かしい空気感を漂わせている。

 店内のレイアウトは、あえてイメージをあまり持たないようにしているというが、そうする事でお客さんが自分だけの部屋のイメージを膨らませやすいのだと思った。

初めて訪れたというが、窓の絵の下の公園が見える席を選んだというお客さん。店内の窓は、座った目線と同じくらいの高さで視線を塞がず、外を見通せる気持ちよさがある

 この日石巻市から訪れた高校生は、のんびり楽しそうに会話を楽しんでいた。感想を伺うと居心地の良さが気に入ったそうだ。

鏡に映し出された空間さえも絵になる。レコードが奏でる音楽、店内を写す鏡、鏡に映った店主と絵画。見る場所によって作り出す空間がたくさんあるからずっと居心地よく過ごせる。レコードの下には店内を暖めるストーブが置いてあるが、写真に映らなくても暖かさが伝わるから不思議だ

 看板メニューはチョコレートケーキとチーズケーキ、それにコーヒー。全て心を籠めて作られ、コーヒーも丁寧に淹れている。

チョコレートケーキは、コーナーハウスの看板商品だけあり、次々とお客さんの元へ運ばれていった

チーズケーキも、さくっとしたビスケットの食感がとても明るく爽やかでリフレッシュできる

大きな窓から入る陽の光が、昼から夜に変わる瞬間も、壁に映し出された影さえも綺麗に映し出す

夜の窓とそこに見える景色はなんだか昼間よりセクシーな気がして、色気のある肴町の雰囲気に合っている。新緑や夏の清々しさも綺麗だけど、冬に訪れるコーナーハウスは美人に磨きがかかる

 日が暮れるとグッと大人っぽい雰囲気が増してモダンな感じになる店内は、夜の顔に変わる。昼間は学生さんや若い会社員の方々が次々と訪れていたが、夜になるとぐっと年齢が上がり深みのある渋いお客さんが次々と入る。しかし土井さんは昼も夜も変わらない。忙しければパタパタと動くし、お客さんが落ち着くと、レコードを眺めたり、鼻歌を口ずさんだりしていて、思わず喫茶店では無く家にいるんじゃないかとさえ思えてくる。 コーナーハウスでは、昼も夜も静かに時間が流れている。ここは、お客さんそれぞれの心にある居心地の良い部屋に置き換わる事ができる、そんな不思議な空間だと思った。

 コーナーハウスをはじめて12年、コーヒーが好きで始めたという喫茶店の店内では土井さんが毎日同じ仕事を繰り返す。窓の外では昼から夜になり、春から夏に、秋から冬に季節が変わる公園の景色がある。昼も夜も似合う喫茶店は、仙台ではあまりない。

日常を忘れさせてくれるような控えめな灯り。薄明かりの下で時には忙しそうに、時にはのんびりと土井さんがコーヒーやチャイを淹れる姿は、ゆったりした時空間を作り出す。コーナーハウスに流れる時間の流れを写真に撮ったらこんな感じになった

優しい灯りが灯ると、美しくて見とれてしまう外観

お子さんが拾ってきた流木を利用して親子で作ったという可愛らしい看板

ビニールテープを貼り作られている手作りの看板。下地は木材がほとんどで、大体5分ほどで文字を貼り付け終わったという

壁にステンシルシートを置き、スプレーで直接描いたという看板。きっちりしていない文字のバランスが絶妙でかっこいい

看板と同じフォントを使用し作られているコーナーハウスのグッズ。現在品切れだが『doi font』という名前でTシャツなども作られている

ごく普通のビニールテープで文字が作られていく


店名
コーナーハウス

業種 
喫茶店

創業年
2007(平成19)年
ヤマハが開発した音声合成システム「初音ミク」を本格的に展開。仙台を舞台にした伊坂幸太郎原作「アヒルと鴨のコインロッカー」の映画が公開。

看板制作年
2007年(オープンの前日に製作)

制作者
オーナー自身

素材
木材
※店舗正面ドアの向かって右側のみ壁に直描き

自慢できること
飽きないようにしているシンプル風な店内。

看板メニュー
コーヒー
チョコレートケーキ・チーズケーキ 
       


ここで一句

窓景色緑の木々がキラキラし 夜には灯りに包まれる 
なんだか不思議な時空間
チョコレートケーキの甘さが心に染みる
それぞれの心に描く自分の部屋

大きな窓から眺めた景色は昼も夜もキラキラしていて美しい。大きな窓は変わらずそこにあるけれど、繰り返される昼と夜がコーナーハウスの空間を作り上げている。シンプル風の店内は想い想いの私の部屋。
 
明日も看板を求め、みちのく一人旅はつづく。
 

コーナーハウス

住所   宮城県仙台市青葉区大町1-4-14 営業時間 月~土12:00~ 0:00      日12:00~20:00 定休日  月曜日 Instagram コーナーハウス @cornerhousecorner doi font    @doifont
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