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宮城看板放浪記 第十回 「エルベ」

古き良き宮城の街並みをかたちづくっていた証。それは看板!古くなるほど愛しさつのる。ライターりりっくれおなるどが、看板の声に耳を傾け一句したためる。今日も看板を求めさまよう、みちのく一人旅。今回訪れたのは、青葉区一番町にある喫茶店「エルベ」。

Mar 26, 2019     


 
 仙台の老舗百貨店・藤崎を背に、昭和の懐かしさが残るいろは横丁に後ろ髪引かれつつ、サンモール一番町を抜けると見えてくる南町通り。その通りに建つビルの地下に喫茶店「エルベ」はある。
 
 現マスターの庄子さんは創業者のマスターからお店ごと譲り受けた。だから『2代目』という肩書きは存在せず、「Newエルベ」の初代ということになるらしい。
 
 初代のマスターがエルベを創業したのは1977(昭和52)年頃。庄子さんは、以前は食品卸売の営業マンだった。2年程前「何かやってみたい!」と思っていたところ、老舗喫茶店のオーナーがご高齢で引退する事を知った。最初は喫茶店を始めようなんて考えていなかった。
 
「話だけでも聞いてみようかな。」
 
 そう思ってお店に入ったら、雰囲気に心をわしづかみにされた。店内は懐かしさで溢れていた。ダークチェリー色のスナックみたいなカーテン、金属の経年変化がいい味を出してるランプ、何人も腰掛けただろうと思われる使い込んだ椅子、テーブルゲーム機のテーブル。
 
「店舗とメニューを譲り受けたという形になるので2代目という言葉は適切ではないんです。僕はマスターの親族でも身内でもないけど、『エルベ』の店内を見たら断るという選択肢はありませんでした。」
 
 創業から40数年ほど経つ老舗喫茶店を全くの素人が受け継いだ。しかし、恐れや不安は全くなかったという。
 
「食品業界に居たからなんとなくお店がどうやって成り立つのかは理解してました。ただ、難しかったのがメニュー! レシピも分量なんか無くて、以前のマスターの目分量。何を使うのかくらいしか分からず、手探りで試行錯誤しながら味を再現していきましたね。」
 
 老舗喫茶店だけあり、常連さんも多く当初はメニューの味付けが気になるという声があったため、なるべくがらんと味を変えないように気を配りつつ、新しいエルベの味を作ろうと考えた。
 
「シンプルな『塩味スパゲッティ』の再現が一番難しかったです。一番最初にお店を見学した時に以前のマスターが作ったあの味が忘れられない。試行錯誤を繰り返してなんとか今はそれを損なわない、新しいエルベの味を見つけました。」
 
 今でも毎朝『塩味スパゲッティ』を作って味を確認しているという庄子さん。エルベは新しくなったけど、庄子さんの頑張りによって昔のエルベも生きている。
 

店の入り口ドアの右側にある看板
 

プラスチックにマスキングテープ(ビル入口①)
 

プラスチック(ビル入口②)
 


店名 
エルベ
 
業種 
喫茶店
 
創業年
1977(昭和52)年頃
人気シリーズ『ドリフ大爆笑』が放送開始、小学館から『コロコロコミック』が創刊される。ピンクレディーの曲が次々とヒットする。
 
看板制作年
1977(昭和52)年頃(創業と同じ)
 
制作者 
不明
 
店舗入り口向かって右の看板の文字は「Elbe」の英語表記。正しくはカタカナ表記だというが、Elbeの「E」の中にハートがあり女性のお客様に人気があると言う。
 
素材
プラスチックにマスキングテープ(ビル入口①)
昔、ビルの管理会社の人がわかりやすくなるように文字をテープで貼って作ったらしいという手作り看板。
 
プラスチック(ビル入口②)
カタカナがかわいい、オーソドックスなエルベ表記。
 
木材(店舗正面ドア右側)
英語表記の看板の真下には、懐かしさが増すガラスケースに入った食品サンプルたち!
 
自慢できること
スタッフのチームワークとお店の雰囲気。定番メニュー。
 
看板商品
塩味スパゲッティ・レインボーフロート・クリームソーダ


 

 

レインボーフロート
 
 左からコーラフロート、ピーチフロート、ブルーハワイ、クリームソーダ。 初期はコーヒーフロート、コーラフロート、オレンジフロートクリームソーダだけのメニューだったという。現在はクリームソーダをレインボーフロートから外し、代わりにブルーハワイが加わった。クリームソーダとブルーハワイは人気のワンツーコンビ。
 

塩味スパゲッティ
 
 庄子さんが味の再現に苦労を重ね思い入れのあるメニュー。玉ねぎ、ウィンナーやキャベツなどの具材がシンプルながら、ちょうど良いしょっぱさの塩味が最高!味付けは秘密。キャベツや玉ねぎのシャキシャキ感を残し、麺の太さは割と太めで「THE喫茶店」のスパゲッティ! という昭和な味。
 

この日訪れていた学生さん
 
 今どきのカフェより、昭和レトロなこの雰囲気が好きでよく来ると話してくれた。この日は定番ナポリタンとカレーライスを食べていました。いつも、塩味スパゲッティを注文するらしい。「シャキシャキ感がハマる」との事。メニューをひとつずつ試していくのが楽しみなんだと言う。
 

 

懐かしさ溢れる店内
 
 オフィス街の一角にあるビルの地下にあるエルベ。サラリーマンのお客様も多く、常連になる頃には転勤があり、そんな人の流れも段々わかってきたと言う庄子さん。店内を見回すと昭和や平成初期くらいで時間が止まった空間に見える。
 
ここで一句

ベーシック、オーソドックス、シンプルな塩味
シャキシャキ噛みしめる
しょっぱい平成噛みしめる
そしたら口に広がった、明るい昭和が広がった
辛くてもみんなでワイワイ頑張った
甘く切ない思い出の
SWEET MEMORIES スパゲッティ

 
塩味スパゲッティを味わいながら、懐かしさ漂う店内を楽しめば、平成のしょっぱさが頭をよぎるが、なぜだか心の中は甘く切ない。時代の流れ噛みしめる。平成終わって新元号。けれど昭和はここに生きている。
明日も看板を求め、みちのく一人旅はつづく。
 

エルベ

  住所   仙台市青葉区一番町1-1-30 電話番号 022-262-1980 営業時間 11:30〜17:00 定休日  日曜日

 

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