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宮城看板放浪記 第四回 「小野寺氷屋」

古き良き宮城の街並みをかたちづくっていた証。それは看板! 古くなるほど愛しさつのる。ライターりりっくれおなるどが、看板の声に耳を傾け一句したためる。今日も看板を求めさまよう、みちのく一人旅。今回訪れたのは、大崎市古川七日町の小野寺氷屋さん。

Jul 31, 2018       

大崎市は、近隣市町村が合併してできた市で、温泉やこけし、紅葉で有名な旧鳴子町の『鳴子温泉郷』や、伊達政宗が幼少期を過ごした旧岩出山町の『有備館』が観光地として親しまれている。
 
そんな大崎市にあるJR古川駅から北西に17分ほど歩くと、七日町という商店街がある。
シャッターが閉まっている店も見かけ、少し錆びたり、黒ずんだりしてはいるが、『衰退』と呼ぶにはもったいないほど、昔ながらの喫茶店や、飲食店、洋品店など、懐かしい風景が残っている。
 

 
昔のまま時が止まったような静かな通りを歩き続けると、少し色褪せた「氷」という赤い文字が、控えめながらも強調された看板を掲げた、趣のあるお店が見えてくる。
 
『小野寺氷屋』
 
「氷、氷、氷」と、暖簾が並び、開けっ放しの入り口から涼しい風が心地よく通り抜け、地元のお客さんが、次々に入っていく。
 

 
ご主人の小野寺さんにお話を伺ってみると、なんと創業は江戸時代の文化7年とのこと。文化7年頃といえば、日本は外国から開国されるように迫られ、江戸幕府の終焉(しゅうえん)を迎えようとしている最中だ。
 
江戸時代は両替商から生業を始め、その後果物と氷屋などをしていたそう。屋号も『いわてや』から『くまもとや』を経て、今の『小野寺』に変わったという。現在のご主人は7世代目になる。
 

 
七日町の商店街は、8月の3日あたりから吹き流しが飾られ夏祭りが行われる。普段は静かな商店街がその日だけは屋台や花火で賑わう。
 
果物と氷屋を中心にやっていたときに、地元の夏祭りにかき氷の露店を毎年出店するようになった。そのうちに地元のお客さんの要望が増え、お店でも夏場にかき氷を始めるようになったそうだ。
 

 
現在は、ご主人と妹さんの兄妹2人で切り盛りしている。
お客さんは、小学生から中高生、サラリーマンにお年寄りまでと幅広い。夏になると何度も足を運んでしまう、地元の人にとって期間限定の楽しみになっている。
 
お父さんとお母さん、お子さんと家族揃って訪れていた常連さんが、美味しそうにかき氷を頬張っている。
「家族でワンシーズンに3、4回は来ちゃうね。あと内緒で1人で寄ることもあるから10回は来てるよ(笑)。」
家族に内緒で一人で来たのに、テレビカメラが取材に来ていたので焦って顔を隠したこともあったと照れながら話すお父さん。
 

 
氷屋さんで育ったご主人と妹さんに質問してみた。
「かき氷にシロップを全種類かけるのに憧れたことがあるんですけど、やったことはありましたか?」
妹さんがにっこり笑って答えてくれた。
「やったよー。ラーメンどんぶりに山盛りのかき氷を盛りつけて、イチゴ、レモン、メロン、練乳って全部かけた! それが子ども時代の楽しみでとっても楽しかった。」
そう話す妹さんの笑顔は一気に童心に帰ったようだ。
 
良い氷をおいしく食べて欲しいと言う、ご主人と妹さんの息ぴったりのチームワークで作られたかき氷は格別に美味しい。
真夏の暑さの中、プラネタリウムの中に入ったかのような、清涼感をもたらしてくれるかき氷。本物の氷で作ったかき氷は猛暑なんて吹き飛ばしてくれることだろう。
 


店名 
小野寺氷屋
 
業種  
氷販売、カキ氷
 
創業年
江戸時代 文化7年(1810年)(伊達家は伊達周宗が藩主、徳川家は徳川家斉が将軍を務めていた。周宗は、家斉の娘と婚約している。村上もとかの漫画『JIN-仁-』(じん)でお馴染みの江戸時代の医師、緒方洪庵が生まれた年。浮世絵師喜多川歌麿が亡くなった年。)
 
看板制作年
1970年(昭和45年)
 
制作者
大崎市古川の美装社さん
 
先代のお父さんが、『氷』の赤が特に目立つように、周囲は青をイメージして作成してもらった。昔は看板に電球を入れており、明るく灯っていた。
 
素材
アクリル板
 
自慢できること
創業以来、本業である氷屋の本物の氷でかき氷を、お客さんに味わってもらえていること。
 
看板メニュー
宇治金時、白雪


 
 
稼働期は5月末から9月末まで。その年に仕入れた氷はこの期間に全て売り切ってしまうそう。魚屋さんや、飲食店、フェスや、保育園などに納品することもある。
今は飲食店でも、製氷機があるので年間通して氷を売るということはなくなった。店を閉めている間は、外に働きに出ていると言う。まさに夏にしか食べられない、季節限定のかき氷なのだ。
 

いわてや

 
「いわてや」は昔の屋号。ご主人が、お店の歴史が知りたくて自らの手で調べたという。この屋号では明治時代までしか呼ばれていなかったため、今この屋号を覚えている方はいないと言う。昔はサイダーを作って売っていたこともあったそう。
 

10種類のかき氷

 
かき氷は10種類。本物の氷で作ったかき氷は、透き通っていて本当に綺麗。このメニューで何十年も提供している。
 

30〜40年前使用していたガラスの器

 
カキ氷用の器は20年くらい使ってるガラスの器。ビードロ模様が綺麗なものは、30〜40年程前にお店で使用していたもので、今は大切にしまってある。リクエストがあればサラサラのかき氷を、レトロな風合いのアンティーク食器で味わう事もできるそう。
 

宇治金時

 
1番人気の宇治金時は、抹茶のシロップたっぷりで、大粒の小豆が本当に美味しい。練乳の甘さもちょうどよく、上品な甘さが特徴。
 

白雪

 
白雪は、サラサラのかき氷の上に、砂糖シロップをかけるというシンプルなもの。練乳と間違える方が多いそうだが、さわやかな味わいの白雪は、見た目の透明感の美しさと食べた時のさっぱり感が忘れられない。
 

イチゴ

 
かき氷の定番イチゴ! 甘酸っぱくて、ピンク色のシロップがかかっているだけで、かき氷の真髄を網羅した気になる。きれいな氷に映える赤が本当に美しい。
 

ご主人が大きな氷の塊を製氷機にかける

 
フェスやイベント、飲食店などにも納めている本物の氷。ご主人がガラガラと削り、ふわふわのかき氷の山ができると、そこに妹さんがシロップをかけて完成。
 

友達同士で味わうかき氷

 
レモンミルク、宇治、宇治ミルク、イチゴ。おのおのお気に入りのかき氷を食べて涼んでいた。夏になると放課後に友達同士で来ることが楽しみなのだそう。
 

 

氷、氷、氷

 
氷、氷、氷、と風に揺れる暖簾を見ているだけでかき氷が食べたくなる。日よけの簾も涼しさを後押しして猛暑の中で少しでも暑さを忘れ、清涼感を与えてくれる。
 
 
ここで一句

蝉の声
涼を求めて向かいけり、歩く景色の懐かしさ
イロトリドリのかき氷、目でも楽しむ夏の日の
口に広がる涼しさと、贅沢たるや小野寺氷屋

 
真夏の暑さに心も身体もくたびれますが、七日町の懐かしい通りを歩きながら、小野寺氷屋さんの心のこもったかき氷を食べると、ひんやりとした清涼感で蝉の鳴き声さえ心地よく聞こえる、とある夏の日に変わるのです。
 
明日も看板を求め、みちのく一人旅はつづく。
 

小野寺氷屋

  住所 大崎市古川七日町10-54-27 電話番号 ‭‭0229-22-0118 営業時間 10:00〜17:00 (7月後半から9月後半は18:00頃まで) ※要問い合わせ 定休日  なし(用事がある時はお休み)

 

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