1分コラム

本から本を思い出す 第3回

本を読んでいて、別な本のことを思い出す時がある。
同じようなことが書いてあったり、逆のことが書いてあったり、たまに、読み直してみても、なんで思い出したのかよくわからない、ということもある。
そうやって思い出しながら、自分の本棚の本をぐるぐるとリレーしていく。

Feb 28, 2018   

第2回
→宮本常一 旅する民俗学者[佐野眞一責任編集]
→博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話/サイモン・ウィンチェスター(鈴木主税・訳)

 

『一人の体験をできるだけこまやかに聞くことによって、まずその人の炭鉱についての全体像を見なければならぬ。そうしないと、その人の中で占めている伝承の資料としての価値を知ることができない。
 そして重要なことはいかに多くの体験者から話をきくかということが必要であり、もし部門別な整理が必要ならば項目別の索引をつくればよい。』
宮本常一 旅する民俗学者:P126より
 
『OED(オックスフォード英語大辞典)は、その編纂の方針において、他の多くの辞典と異なっている。印刷物やその他の記録から英語の「用例」を徹底的に集め、その用例を引いて、英語のあらゆる語彙の意味がどのように使用されているかを示しているのだ。(中略)用例を集めて、そこから選び出したものを示すことにより、あらゆる言葉のもつ性質のすべてを非常に正確に説明できると考えられたのだ。』
サイモン・ウィンチェスター 博士と狂人:P47より

 
『博士と狂人』は、完成に70年を費やしたOED(オックスフォード英語大辞典)の編集主幹ジェームズ・マレーと、OEDに何万件もの用例を送り続け、死ぬまでの50年余りを精神病院で過ごしたウィリアム・マイナーの話である。マレーは1879年にOEDに関わり、ただひとつの辞書を作るために亡くなるまでの36年間を捧げた。当初この辞書は、全4巻を10年で完成させるはずだったが、マレーは完成を見届けることなく1915年死去。ようやく「T」の編集が終わった2年後のことだった(「T」の完成だけで5年を要し、死後、1928年に完成した全12巻のOEDには、41万語と182万の用例が収録された)。
 何かを分類したりその意味を捉える前に、まず徹底的に、網羅的に、集められる情報を全て集めるーー宮本氏の仕事でいうと、それに関わる全ての人と会い、話すーーということは、途方もない作業である。だがそうしない限り、意味が、言葉が、「分類の間からこぼれ(旅する民俗学者:P159)」てしまう。宮本氏は、ひとりの人間の人生をすべて聞き出すことで、マレーはひとつの言葉の用例をすべて集めることで、より大きな人間の・言葉の価値を探った。ふたりのアプローチは一見して真逆のように思えるが、そこから生み出されたものはどちらもとてつもなく大きい。
 

『分類を抜きにして何をつかむのか、ということがおろそかになるのですね。分類からこぼれたものが、いったいどれほどあったろうか。(中略)これこれが民俗学で、これこれは民俗学ではないという枠をはずして、目につくすべてのものを人間にかかわるものとして、もう一度掘り起こしてみる。』
宮本常一 旅する民俗学者:P159より
 
『「マイナー博士はいまの半分ぐらいの用例を文を送ってくれればいいのだが」と、マレーは圧倒されながら、別の編纂者への手紙に書いている。「しかし、どの語が役に立つかは、辞典編纂の立場で単語を扱ってみなければ決してわからない」』
サイモン・ウィンチェスター 博士と狂人:P47より

 仕事をしていると、すごく簡単に物事を分類して、必要なものだけを残して、わかったような図を作ってわかった気になってしまう。そしてわかったような図を簡単に作り続けていると、目に見えるもの全部をまた簡単に分類して、わかったような口を聞いてしまう。それは左だねとか、それは無しだねとか。
 右でも左でもあり、ありでも無しでもある、分類からこぼれるものについてもっと考えなきゃと思う。

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BGM of "BGM"

antennasia san (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。soundcloud