BGMのオススメ

ビギナーズ・ヴァイナル
今日からあなたもレコード貧乏

これからレコードを聴き始めるなら手ごろに入手できて音質もクリアな再発盤はおすすめ!
ただし、オリジナル盤の捨てがたい雰囲気も魅力……

Aug 27, 2020   

【第2回】音をとるか、ムードをとるか
Jimmy Reed/I’m Jimmy Reed

いきなりだが、日常は一会社員として働いている。

よって会社勤めの皆さん同様「あー、なんだかなぁ~」という物憂げな気持ちに襲われることはしばしば。日曜日の夜なんて常に憂鬱MAXであります。そう、ブルーな気持ちである。

音楽ジャンルとしての“ブルーズ”はこういった気持ちを率直に歌ったもの、あるいは日常の憂さや倦怠感を吹き飛ばすような音楽のことをいう。
ちなみに、「ブルース、じゃなくて、ブルーズだ」と教えられたのは高校生の頃だ。行きつけの新星堂の店員さんから教わった。どうやら現地アメリカでは「ズ」、と発音するらしい。仙台でいうところのジャージじゃなくてジャス、みたいなものか。いずれにせよ、音が濁るほうが通っぽいし、いわゆる日本のブルースといわれる「別れのブルース」(淡谷のり子)とか「伊勢崎町ブルース」(青江三奈)と差別化できていいか、と思ってそのままブルーズと呼ぶことにしている。
今日のご紹介はそんなブルーズの中でも私が一番好きな一枚、「I’m Jimmy Reed」である。

ご当人、ジミー・リードである。なんともホンワカしたいい感じのおっさんである。

ジャケの説明によると録音当時御大33歳。どうやら子供が10人もいる家庭に生まれ、稼ぎを得るため学校へは3年間だけ通ったらしい。レコーディングにはママ、すなわち奥さんが常に立ち合い、ご当人の隣りで歌詞をつぶやいていたとのこと。そう、このジミーおじさんは酔っぱらって歌詞が全く覚えられないことで有名なのだ。ライブでも歌詞はめちゃくちゃ、常に酔っ払っていたという記録は方々の書籍に記されている。いやー、ブルーズですな。

さて、「大好きなアルバムはレコードで買いなおす」を信条としている私は2年ほど前、本作の再発レコードを名古屋の専門店から通販で入手。新品の再発ステレオ盤であった。

2年前は正直オリジナル盤⋆という概念すら知らなかったので、とにかくCDの買い替えという気持ちが強く、「多少なりCDより音がよくなるだろ」くらいの気持ちだった。お値段、約3,000円。肝心の音のほうはというと、これがCD並みかそれ以上のコクがあり、音質もクリアでキレがある良盤であった。新品なのでノイズもない。文句のつけようもない。

……そう、文句のつけようがないんだけど、なんだかそれが物足りない。そういう気持ちになった。ブルーズっていうのは、どこかこう、手抜き感ややりすぎ感、という両極のいずれかに多少なり振れていてほしい音楽である。この再発盤はCDで聞くのに比べて多少なり音圧は増しているし、極めて丁寧に作られている。いうなれば文句のつけようがない。とても優等生である。だが、そこがどうにも物足りない。ブルーズの、しかも歌詞すら覚えられないお酒大好きジミーおじさんのアルバムなんだからもう少し、「らしさ」みたいなものがあるんじゃないかな、なんて思ってしまうわがまま放題な私である。

さて、つい先日、なんと都内の中古店で本作のUSオリジナル盤を見つけてしまった。お値段約1万円。「酔っ払いのうわごとみたいな音楽に1万円か……」さすがの私も2分くらい悩んだが、どうにも大好きな作品である。その1分後にはレジに持って行ってしまった。

本オリジナル盤はモノラルである。よってレコードプレーヤーの針をモノラル専用に交換して早速聴いてみた。

まず、音がこもっている……。再発盤のキリッ! シャキッ! の反対で、高音域がやたら丸い。子供のころラジカセでAMラジオで流れる音楽を聴いたような、そういう丸みである。以前ご紹介したビートルズのモノラル盤のような中音域を中心に高・低音域がみずみずしく張り出してくるような感覚は一切ない。

とはいえ音圧は高い。これはオリジナル盤ならでは。前へ前へと音が押し出して体に迫ってくる。

しばらく聞き続けていると、途中で音量が若干低くなることがある。これは当時のレコーディング技術上そうなってしまったのか、あるいはレコードプレスの段階でそうなってしまったのか、原因は不明だが曲の途中でジミーおじさんの歌声が小さくなるのだ。「これは曲中に本人のやる気が低下して……」とも考えられる。それほど、音にのどかさが漂うのだ。陽気なけだるさ、とでも言おうか。やる気という面ではまったくみなぎってないのだ。

総じて、音質的なところでは再発盤に軍配が上がる。クリアにメリハリのきいた音を楽しむには再発盤が素晴らしい出来だ。しかしながら、オリジナル盤にはアーティストの人柄と当時をしのばせる雰囲気、そうムードがある。純粋に音楽を楽しむなら再発盤がよいが、その音楽の鳴る場や空気の中に身を置きたいと思うならオリジナル盤で楽しむ。同じ音源なのに伝わるものが違うのもレコードで音楽を聴く魅力の一つである。


【今日のうんちく】

*オリジナル盤

一般的には企画・録音され、レコードとして商品化したレコード会社が発売した当初にプレスされた盤のことをいう。書籍でいうところの初版が近い考え方だと思われる。しかしながら、個人・店舗によっても定義はまちまちである。
①発売された国での区分けの有無(例えば「UK-ORIGINAL」「US-ORIGINAL」など) 
②ジャケット・レーベルの仕様 
③レコード番号
④デッドワックスへの記載、などさまざまな判断材料があり解釈は分かれるところ。

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隷好堂 タカヲ
レコードとお酒、競馬を愛するアラフォーのサラリーマン。仙台生まれの仙台育ち。就職で大都会東京へ移住し15年。毎週レコードを求めて都内をさまよい、お目当てを見つけては散財の日々。座右の銘:「盤との出会いは一期一会」。

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BGM of "BGM"

antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。