1分コラム

壱二参(いろは)横丁にある焼肉ホルモン「ブーチャン」の店舗外観

宮城看板放浪記
第十九回 「ブーチャン」

 古き良き宮城の街並みをかたちづくっていた証。それは看板! 古くなるほど愛しさつのる。ライターりりっくれおなるどが、看板の声に耳を傾け一句したためる。今日も看板を求めさまよう、みちのく一人旅。今回訪れたのは、青葉区一番町の壱二参(いろは)横丁にある焼肉ホルモン「ブーチャン」。

Aug 16, 2020   

個性溢れる店舗が並ぶ壱二参(いろは)横丁の写真

 藤崎デパートを背にしてサンモール一番町を進むと、看板放浪記で以前お伺いした、手書きの看板が印象的な「すみやきホルモンだるま」が目に入る。横丁ファンを惹きつけてやまない名店が所狭しと建ち並ぶ「文化横丁」を入り奥へ進むと、お隣りには長〜い長屋の横丁「壱弐参横丁」が見えてくる。

 懐かしい風景や個性溢れる名店の数では「文化横丁」と甲乙つけ難い。「壱弐参横丁」は、戦後、焼け野原に戸板1枚を置いて区画を決め、その上に商品を並べて商売を始めたのが起こり、という言い伝えがあるという。その後、戸板で商売を営んだ商人同士がお金を出し合い、バラック小屋を建て始めた。それが今の「壱弐参横丁」の前身「中央公設市場」だといい、昭和22年の事だそうだ。現在は、韓国料理に、コーヒー屋、イタ飯、スナックにピザ屋、焼き鳥屋、なんでもある上、所々に混じる茶舗や青果店、鮮魚店もまた、昔懐かしい雰囲気を醸し出している。さらに、全長120mはあるというこの横丁には、食べ物屋だけではなく、アウトドアショップにアロマ専門店等、バラエティーに富んだ店舗が軒を連ねている。戦中から使われていたというタイル貼りのポンプ水道もあったり、バラックとバラックのつなぎ目には、タオルやゴム手袋が洗濯ロープに無造作に吊るされ何気ない日常のゆったりとした時の流れが気持ち良い。そんな昭和感が心を癒す。

 心踊り、うきうきしながら「壱弐参横丁」を歩いていると、木製の豚の看板が目に飛び込んだ。豚はただの豚ではなかった。金色で、こころなしかなかなか上品でおしゃれでモダンであった。見上げると豚の看板の上には「ブーチャン」。豚をそのまんまあらわした店名に拍子抜けして和んだ。赤色のシンプルな片仮名が心をくすぐる。するとのんびり入り口で休憩している男性が見えた。

 「すみません、看板についてお伺いしたいのですがよろしいですか?」と声をかけた。聞けば男性は店のオーナーで「ブーチャン」はホルモン屋なのだという。よく見ると、入り口には「ホルモン」という片仮名の看板がぶら下がり、ホルモン焼きを意味する「とんちゃん」という提灯が吊るされていた。オーナーさんは「看板? 看板メニュー? いいけどそんなの適当、適当!」とおチャラけて答えた。それから優しく「もしよければ入ったら?」とフランクに答え、中に入れてくれた。

 入ってすぐ後ろを振り返ると、入り口の真上にもう一つの看板が掲げられていた。可愛らしい豚のイラストが描かれたそれはブーチャンではなく「ブータン」だった。すごく不思議だった。「ブーチャンとブータン? 国民総幸福量ナンバーワンのブータン王国?」

焼肉ホルモン「ブーチャン」の店先には木彫りで金色の豚が飾られてある

 オーナーの名前は中鉢さん。店の中には何人か先客の方々がいた。常連さんや中鉢さんのご友人、それに学生さんが食事中だった。中鉢さんが、お客さんに私が看板やお店の話を聞きに来た事を説明する。まずはお店の成り立ちを伺うと、答えたのは中鉢さんではない。「あのね、ブータンはもともと中鉢さんが仙台銀座でやっていたホルモン屋でね」「そうじゃなくて! この店はそこにいる中鉢さんのお父さんとお母さんがなさっていたの」「違う違う、その前に中鉢さん一人でもやっていたのだから」常連さんにご友人、みんなが思い思いに挙手をして答える。なかなか話がまとまらず、最後に中鉢さんが話し始めた。「いや、最初は俺サンドイッチ屋だったんだよ。サブウェイなんかが流行る大分前、20年以上前に。」

 中華料理屋の息子として生まれた中鉢さんは高校卒業後、しばらくヨーロッパを放浪したそうだ。その際、ヨーロッパの屋台で食べたサンドイッチが忘れられず、「壱弐参横丁」でサンドイッチ屋を開店した。バケットや食パンで、ハムや野菜、ジャークチキンを挟んだ。「当時の仙台に、そんなサンドイッチはなかった、時代が早過ぎたな。」中鉢さんはそう振り返った。仕事をしている人がお昼の休憩に美味しいサンドイッチを食べられるように「WORK」という店名にして切り盛りしていた。さらに、仙台銀座に「ブータン」というホルモン屋も運営していたのだそうだ。

 一方、中華料理店を閉めたご両親は、中鉢さんの「WORK」とは別の場所にホルモン屋の「ブーチャン」を開き、切り盛りした。それが今の「ブーチャン」の始まりなんだという。しばらくご両親で営業していたらしいが、お父さんが亡くなりその後からはお母さんがひとりで運営するようになった。しかし、そのお母さんも震災後に亡くなられた為、中鉢さんが「WORK」も「ブータン」も閉めて、いよいよご両親の「ブーチャン」を引き継いだのだ。

壱二参(いろは)横丁にある焼肉ホルモン「ブーチャン」の店内の様子。懐かしい雰囲気のあるビールのポスターが壁に貼られてある 店内の看板「ブータン」は、オーナーの中鉢さんが昔仙台銀座で営んでいたホルモン屋「ブータン」の頃の看板。豚のほかに、水色で海のような山のようなイラストが描かれている。以前は富士山が描かれていたらしいが画家のご友人が書き換えたという

 看板は、油がいい具合に馴染んで化粧を施しているようだ。「掃除が出来たらいいですね」とわたしが言うと、中鉢さんは「油でギドギド、けど今見ても富士山の絵を思い出すね」と微笑む。

 店内の看板「ブータン」の謎が明らかになったところで、お客さんみんなの顔がゆるくほころび明るくなった。次のお客さんが入ると、「あのさ」とまた中鉢さんとの会話が始まった。また別のご友人の方だというが、中鉢さんがおしぼりを出す前にお客さん自ら、先客のお皿なんかを後片付けしてテーブルを拭いている。そんな光景が微笑ましかった。

 看板の事をさらに伺うと、豚はご友人で近代アートと使いやすさに定評がある家具デザイナーが手がけたというし、「ブーチャン」と「ブータン」という看板は、画家のご友人が手がけている。アフリカンカラーが明るく色彩豊かな絵画の他、動物顔のオブジェ等、個性的な作品が印象的な画家だそうだ。看板を手がけた画家ご本人に後から伺うと、「ブーチャンは『壱弐参横丁』の歴史だね」そんな風に言っていた。確かにこのお店には、中鉢さんのご両親がやっていた「ブーチャン」に、中鉢さんのサンドイッチ屋「WORK」に、仙台銀座の「ブータン」にと、今の「ブーチャン」までの歴史が全部詰まっている。

 店の内装は、中鉢さんとご友人達が協力して改装したというからすごい。店内を突き抜け、建物を支える梁や、古くて味わいのある格子窓も、ある古民家を取り壊す際に古材を譲られたものなのだそうだ。そんな話を聞いているうちに、「ブーチャン」のオーナーは中鉢さんだけど、ご友人や常連さんみんなで成り立っているお店だと思った。

焼肉ホルモン「ブーチャン」の手書きで書かれたメニュー赤板に白字が映えているメニューの木札は手書き。ホルモンや焼肉の他、チャーハンやフライドポテトも人気があるそうだが、時節や中鉢さんの気まぐれで出ない日もあるので確認しながら注文するのが楽しかった

 看板メニューを伺うと、「ホルモン」と答える常連さんもいれば、「チャーハン」と答えるお客さんもいる。中鉢さんが「チャーハン、メニューに書いてるだけで出してないから」というと「どれなら食べれるんですか?」と学生さんが突っ込む。そしてどっと笑いに包まれる。その学生さんはお店に通い始めて3年位だというが、常連さんやご友人達に気持ちいいくらいに馴染んでいた。仙台の「壱弐参横丁」界隈のお店の良さは、やはり店内の一体感だと思った。

壱二参(いろは)横丁にある焼肉ホルモン「ブーチャン」の店内から見る厨房の様子中鉢さんはひょうきんにおどけながら厨房でジョークを言ったかと思えば、黙々と調理に取り組む

 そして最後に私が中鉢さんに「ホルモンのタレって、中鉢さんが作ってるんですか?」と聞くと「ああ、秘伝だね。〇〇(果物)とか〇〇(調味料)とか……って、材料話したら秘伝じゃなくなるわ!」なんて話す。中鉢さんはユーモラスな方だけど、調理場に黙々と立って作業をし、出す料理はどれも最高だった。秘伝のタレでいただくホルモンの味は抜群だ。

 タイムトリップしたような昭和と平成の空気が今も生き、令和の空気も共存する横丁にあるホルモン屋。そこには、シャイな店主のユーモアとみんなの思いやりが共存していた。高い天井は、長屋のこじんまりとしたスペースを広く見せ、店内はあったかく広く見えた。「自慢出来る事は何ですか?」と伺うと、「そんな事いいから彼女募集中って、ちゃんと書いてよ!」と中鉢さんがジョークを飛ばすと、気の知れた友人が「ホルモン屋なんだから、ホルモン! くらい言わなきゃダメ」とツッコミを入れると、また店内は笑いに包まれた。

壱二参(いろは)横丁にある焼肉ホルモン「ブーチャン」の店内からみた入口には黒の暖簾が掛けられている中をのぞき込み、美味しそうな匂いや楽しそうな話し声につられて入ってくるお客さんも多い

壱二参(いろは)横丁にある焼肉ホルモン「ブーチャン」の店内の様子。吹き抜けで髙い天井となっている店内を突き抜ける梁と、高い天井が広々とした空間を造り出す。梁は古民家から譲られたもの。入り口正面外から見上げるとガラスの格子戸が見える。格子戸の奥は、外階段からしか入れない休憩室なのだという

休憩室に入る為の外階段。丸太や枝を積み上げたツリーハウスのよう外階段から入る休憩室。木の階段はまるで丸太や枝を積み上げたツリーハウスだ

炭火で焼かれているカモハツ「何が好きですか?」とお客さんに伺うと「カモハツ!」と答える方が結構いらっしゃった。中鉢さん曰く「人それぞれ」だそうだが、評判通りカモハツはクセや臭みが全くなくペロリといただくことが出来る

住井で焼かれているホルモン定番人気のホルモンは様々な部位が入っている為、食感の違いや味の違いを楽しみながら美味しくいただける!

手づくりのきゅうりやセロリなどがもろ味噌と一緒に皿に並ぶ農地を借りて、お米や野菜作りにも挑戦している中鉢さん!手間暇かけて作った野菜をお店に出すこともあるという。この日は作った野菜ではなかったが、新鮮なきゅうりとセロリにもろ味噌が格別だった

店の外からみた店内の様子。ポップで可愛らしいイラストに、赤提灯の「とんちゃん」の文字が目をひく

換気扇も黄、赤、青など色鮮やかに塗られている看板と同じ作家さんが手掛けた遊び心溢れる装飾やアートもぜひ楽しんでほしい。換気扇や入り口のお店の横顔がこんなにカラフルなのは仙台ではなかなか見かけない


店名
ブーチャン

業種
ホルモン焼肉店

創業年
1997(平成9)年頃
ご両親がいろは横丁に「ブーチャン」を開業。サンドイッチ屋の「WORK」仙台銀座の「ブータン」を経て、震災後新生「ブーチャン」として再スタート。
この頃たまごっちが大ブーム。エヴァンゲリオンが大ヒット。安室奈美恵の小顔がトレンドとなる、小顔ブーム。

看板制作年
創業に同じ(約22〜23年前)

制作者
画家と家具デザイナー

素材

自慢できること
ホルモン

看板メニュー
ホルモン


ここで一句

おいしいよブタもおだてりゃ金になる
秘伝のタレに舌鼓
店主のジョークに幸せあふれる
ブーチャンは壱弐参のブータン共和国

ブーチャンのホルモンは箸が止まらぬほどおいしい
おいしさと笑いにあふれるブーチャンはまるで国民総幸福量ナンバーワンのブータン王国のようだ

明日も看板を求め、みちのく一人旅はつづく。

ブーチャン

住所    仙台市青葉区一番町2-3-28-84 電話番号 022-215-4191 営業時間 18:00〜0:00 定休日  不定休

※この記事の取材・撮影は感染防止対策を徹底し行いました。

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BGM of "BGM"

antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。