1分コラム

オーロラコーヒーの大杉さんが焙煎をした豆

地域で完結する豊かさ。
山形の小さな
コーヒー工房のはなし。

 東北6県の地産品を紹介するお店「東北スタンダードマーケット」がお届けする連載『もののすがた』。株式会社金入プロデューサーの岩井巽が、数々のつくり手を訪ねる中で共感した、ものづくりの姿勢・背景を語ります。

*過去7回は実際に工房を訪ねた時の様子を記事にしていましたが、新型コロナウイルスの影響により、今回は自宅からお届けいたします

Jun 25, 2020       

なかなか、遠出ができなくなった。

この連載「もののすがた」の配信は2カ月に一度。今まではその間に訪ねた工房のことを記事にしていたが、今回は作り手さんの元を訪ねることができなかった。

例年であれば、これから東北各地で夏祭りが開催される良い季節。しかし、今年は東北6県を代表するお祭りすべてが中止となった。

思えば、東日本大震災をきっかけに、東北では数々のプロジェクトが生まれた。

東北6県のお祭りは、それぞれがとても魅力的なのに、1つにまとまった年もあった。

「全国から東北に人を呼ぶこと」

ここ10年間の東北にとってそれが一つの正解だったし、たくさんの方々が東北を応援してくださった。

東北育ちの自分にとって、それはとても嬉しい一方で、「多くの人に向けて拡大したもの」から順に打撃を受ける今回のウイルスは、まさに厄災だ。

観光客が増えると、お土産の需要も増える。製造数を増やすために工場を拡大し、従業員を増やし、2020年はオリンピックもあるしで、よし! 販売するぞ! というところまできて、大誤算が巻き起こっている。

東北スタンダードマーケットでは、新型コロナウイルスの影響でご縁が失われた品々を、予約注文できるオンラインサイト「#tohokuru(トホクル)」を立ち上げて、全国のお客様に届ける活動を行っている。

今、直近のフェーズとしては、本来行き渡るべきだった品々をお届けすることが先決であることは間違いない。


しかし、ここで少し立ち止まって、もう少し先の未来のものづくりの在り方について考えたい。

遠くの人ではなく、近くの人に届けること。大きな工場ではなく、小さな工房で作ること。

それをずっと体現している、僕の大好きなコーヒー屋さんがある。山形市の「オーロラコーヒー」だ。

山形市の「オーロラコーヒー」大瓶に入って並ぶコーヒー豆の様子

「オーロラコーヒー」は店主・大杉佳弘さんが夫婦で営むコーヒー焙煎所。

カフェ機能は無く、大杉さんが焙煎をした豆だけを販売する小さなお店だ。

2014年のオープン当時に、初めて「オーロラコーヒー」を訪ねた時は、ひとり暮らしのワンルームほどのサイズ感の店内に驚いた。

もともと「コーヒー焙煎所」がどんな場所かを知らなかった自分は、カフェのように、そこで美味しいコーヒーを飲めると思って伺ったからだ。

店内には大きな焙煎マシンが一つと、大瓶に入って並ぶコーヒー豆のみ。ドラクエの道具屋ばりにシンプルな品揃えだ。

あくまで焙煎所なので、カフェのようにコーヒーを飲む場所ではないことは、店内に入ってから知った。

大杉さんに豆の種類を聞くと、コーヒー初心者の僕にも丁寧に解説してくれたので、好みに合いそうな豆を買って家で淹れた。

カフェなどで美味しいコーヒーを飲むと、味が強く、一回で少し飽き気味になってしまうことがある。

しかし大杉さんのコーヒーには、今まで飲んだどんなコーヒーとも違い、美味しいだけではなく“飲みやすい”すっきり感があった。そこが気に入り、いつしか常連になった。

そして何度か通って大杉さんと話すうちに、僕はいくつかの気づきを得ていく。

お勧めはなんですか。

通う度に自分好みのコーヒーの品種が分かってきたのだが、ある時「大杉さんのおすすめはどの品種ですか」と尋ねてみたことがある。そうしたら「全部おすすめですよ」と返ってきた。

またある時は「ハンドドリップでうまくコーヒーが淹れられない」と相談した。そうしたら「3000円くらいのコーヒーメーカーでも、1~2人分なら十分美味しく淹れられますよ。良かったらこのメーカーを譲りましょうか」と、決して高価ではない、普通のタイガー製のコーヒーメーカーをおすすめしていただいた。

そんなやり取りをしているうちに、コーヒーは難しい飲み物ではなく、安心感を得られる飲み物だと感じられるようになり、ぐっと敷居が下がっていった。

ペーパードリップでコーヒーを淹れる写真

ドリッパーからコーヒーが抽出されていく写真

大杉さんはとても寡黙で、謙虚な方だが、焙煎の品質への厳しさはきっと人一倍だ。

ハンドピック(欠けや不良のあるコーヒー豆を一粒ずつ弾くこと)をしている時や、焙煎中に伺った時、その真剣な表情を僕は見ていた。

焙煎と僕への対応を、同時にお一人でされている時もあったが、少しでも焙煎機から目を離すと“焼き”が入りすぎて味が変わってしまう。

「もう少しで焙煎あがるので、ちょっとだけ待ってくださいね」と言われる時もあったが、美味しい豆が焼きあがる甘い香りに包まれて、ちっとも嫌な気分にならなかった。

その揺るがないクラフトマンシップが宿るコーヒー豆に自信があるからこそ、大杉さんは「全部おすすめ」と言えるのだろうし、僕のような初心者がコーヒーメーカーで淹れても美味しくできるのだ。

飲む人がどういうスタイルでも楽しめるように、焙煎の時点で100%の美味しさを引き出せるようにする。

大杉さんのものづくりに込める姿勢に共感しているからこそ、僕は「オーロラコーヒー」を飲み続けているんだと思う。

ブラジル、コロンビアなど様々な地域の商品の写真

コーヒー豆保存容器、コーヒーキャニスターとオーロラコーヒーの写真

「オーロラコーヒー」は、今や全国的にも知名度のある焙煎所の一つだ。

焙煎マシンを増やして、工房を大きくして、従業員が増えれば、より多くの人に届けられるだろう。

しかし、大杉さんは「できれば山形の身近なリピーターさんを増やしたい」と言う。

最近はやめてしまったのだが、オープン当初は、山形市内のお客様に大杉さん自身が車で配達にいく「コーヒー便」サービスも行っていた。

自分が作ったものを、身近な人に届けて、ファンになってもらうという、ごく真っ当な仕事。

Uber Eatsが始まるずっと前から、大杉さんはそのことを理解して、ご夫婦で体現してきたのだろう。

僕自身は、実は山形市から6回の引越しを経て、今は宮城県に住んでいるが、どこに移住しても変わらずに「オーロラコーヒー」を注文している。

どこに引っ越しても、生活スタイルが変わっても、ずっと変わらずにポストに届くいつものコーヒー。

この小さな豆粒に、これからのものづくりのヒントが詰まっていると思えてならない。



オーロラコーヒーを注文するとオリジナルデザインの白い箱に入って届く

オーロラコーヒー

山形県山形市青田4丁目9番31号
https://www.auroracoffee.jp/

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岩井 巽
1992年仙台市生まれ。幼少期を青森で過ごし、東北芸術工科大学進学と共に山形へ。今は株式会社金入で企画やデザインを手がけるプロデューサーとして、仙台市で働いている。趣味は喫茶店や骨董市に行くこと。特技は革を縫えること。一方で、ゲームやガジェット、電子音楽も好き。仙台駅付近に用事がある時は、いつもそばの神田を食べている。

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antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。