FEATURE

合同会社巻組
オモシロ人材で、街に化学反応を起こせ!

 東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市。この街を面白く、元気にしようと奮闘し全国的にも注目される合同会社巻組の代表社員・渡邊享子さんが今回の主役です。強みは、空き家を活用したシェアハウス・ゲストハウスの運営と人材育成、マッチングを循環させる事業のシステム。事業を生み出した思いと、目指す夢を聞きました。

Nov 30, 2019   

人の心を動かす優れた仕事をしている方にお話を聞く特集 “お仕事の極み”

リノベーションでイノベーション!

オモシロ人材で、街に化学反応を起こせ!


事務所にて、巻組スタッフの皆さん。「出る杭になって、出る杭を作ります!」

廃屋がおしゃれな
シェアハウスに

 中心市街地の裏通り、車一台がやっと通れる路地の先に2棟の平屋建て。一瞬、入るのをためらうほど古びたその建物は、母屋と宿泊棟からなる移住体験型シェアハウス「Oli(おり)」です(写真①)。
 母屋の玄関をガラガラと開けると、思わず「えっ?」。そこは外観からは想像もつかない都会的で洗練された空間(写真②)。巻組が築70年以上の空き家をリノベーションし、シェアハウス利用者と民泊客のための交流スペースにしたそう。


①シェアハウス「Oli」の外観。外回りはほとんど手を加えていないそう
 

②シェアハウス「Oli」の内観。布の「織り」のように、多様な人々が交わる空間にしたいとの願いを込めた

 「ギャップがいいでしょ?」と笑う渡邊さん。「外観を古いまま残したのは、メッセージでもあります」。市街地の真ん中にある空き家を、工夫次第でクリエイティブに面白く活用できることを発信したい、と話します。渡邊さん率いる巻組が、空き家を活用して目指すものは何なのでしょうか。


「やりたいこと、やるべきことはまだまだたくさんある」。巻組のビジョンと石巻の未来を、熱く語る渡邊さん

リノベと人材で
価値を付け直す

 渡邊さんが初めて石巻を訪れたのは、東日本大震災直後の2011年5月。東京で都市計画を研究する大学院生でした。ボランティアとして通ううちに、まちづくり活動に関わるようになり、ついには移住。復興に携わる中でまず見えた課題は、住宅の不足だったそう。

 「震災後の1年間で、石巻には延べ28万人ものボランティアが来ました。その中には腰を据えて復興に貢献したいとか、事業を起こしたいという人も多くいたけど、とにかく当時は住む場所がなかった」。この人材をみすみす逃すなんてもったいない! そこで渡邊さんは物件を探してシェアハウスに改修する事業を始めました。

 復興が進むにつれ官民両面からの住宅供給が一気に増加。すると条件の悪い民家には住み手がいなくなりました。先んじて住宅の改修やリノベーションの実績を積み、不動産の知識も身につけていた渡邊さんは、放置される空き家を石巻のまちづくりに活用できると直感。それまで業務委託を受けていた事業を、自分の責任で回そうと起業を決意、2015年に巻組を設立しました。

 扱うのは、古くて立地条件が悪く住みづらい、資産価値が期待できない空き家。通常の不動産市場にはとても出回らない物件ばかりを、現在までに22軒再生しました。そのうちシェアハウスや民泊に生まれ変わった9軒を、石巻でチャレンジしたい人の滞在場所として活用。利用するのは主に、企業インターンの学生や起業を目指す若者です。外国人の利用者も少なくないそう。

 「大量生産・大量消費の経済の中でほとんど無価値になってしまった家に、もう一度価値づけし、そこでクリエーティブな活動が生まれるなんてワクワクするじゃないですか」と目を輝かせる渡邊さん。「住居はただの箱ではなく、暮らす人の社会資本を伴っている。その価値をいかに高められるかに挑戦したい」という言葉は、不動産業の大きな可能性を表しています。


店舗と住まいが融合したシェアハウス「COMICHI」。石巻中心市街地にあり、さまざまな人が気軽に利用する(写真提供:合同会社 巻組)

「アート的思考」で起こす
イノベーション

 巻組が目指すのは、石巻に持続的な地域経済を生み出すこと。そのために人を呼び、住む場所を提供し、来た人材を育て、生まれた事業を売り出すサイクルを構築しようとしています。空き家再生はその一環としてのハード整備。ソフト面では、人材のマッチングや育成、ブランディングサポートなどさまざまな事業を行っています。


巻組が目指す、石巻に持続可能な地域経済を生み出す事業のサイクル

 中でもユニークなのは、美術系大学生の受け入れに特化した「実践型インターンシップ」。地元企業に学生を派遣し、一緒に新たな事業やブランドを立ち上げる取り組みです。美術系に注目する理由は「人と同じではないユニークな発想や創造、いわゆるアート的思考を身につけている」から。彼らの思考が、地元の中小企業と融合すれば面白い化学反応を起こせるのでは、と渡邊さんは考えました。「マーケットが縮小し担い手も減る地方では、従来の価値観を打ち破る人材が必要です」。この事業では実際に、創業110年の老舗麹店のブランディングに関わるなど、地元企業とのコラボが実現しています。


学生と地元企業をつなぐ実践型インターンシップの様子。すっかり街に溶け込むインターン生(写真提供:合同会社 巻組)

 他にも、石巻の起業家を講師とする次世代育成セミナーを東京で開催し、知見を伝えるとともに石巻の関係人口を増やす「とりあえずやってみよう大学」など、次々にユニークな取り組みを繰り出しています。


石巻のユニークな起業家を講師に迎え、東京で開催している市民大学「とりあえずやってみよう大学」(写真提供:合同会社 巻組)


日本政策投資銀行主催「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」にて最高賞である女性起業大賞を受賞するなど手腕が高く評価されている

「出る杭」の人育て

 広がる夢を論理的思考でどんどん実現していく渡邊さんを支えるのは、5人のスタッフ。「誰も打つことのできない『出る杭』になり、さらにたくさんの『出る杭』を作りたい」という思いに共感した、頼もしい仲間です。

 2019年3月に加わった津田成美さんは、工業高校建築科を卒業後、工務店やゼネコンを渡り歩きました。女性の二級建築士では責任ある仕事を任されないジレンマに悶々とする中で渡邊さんに出会い、「仕事に対する考え方が180度変わった」と言います。上司の指示を受けて動くばかりだった今までと違い、自分で考えて提案することを求められるそう。「意見が会社の仕事に反映される。うれしいし、やる気が出ます」と津田さん。リノベーションの設計や現場管理を担当します。巻組が手掛ける住宅は、とにかく古くて立地が悪いものばかり。「住む人がその欠点を楽しんでくれることが嬉しいです」。


現場が好きという津田さん。「リノベ工事中に、元々建てた大工さんの手仕事の跡を見つけると、ときめきます」

クリエーティビティの発掘が
石巻の未来をつくる

 ところで、起業を目指す人にとって石巻はどんな街でしょうか。渡邊さんは「地方は閉鎖的で起業しにくいと思われがちですが、石巻には受け入れる器がある」と話します。そのキーワードは「港町文化」と「震災」だそう。つまり、古くから港町として発展し、外国との交流もあったことでオープンな気質が醸成されていたこと。さらに震災後、全国からのボランティアが利害を超えて助けてくれたという思いから、よそ者や若者に対する心のハードルがぐっと下がったこと。今では、「新しいことができそうだから石巻へ移住したい」という問い合わせが来るほどだとか。

 移住者だけがクリエーティブかというと違う、と渡邊さんは言います。「震災後、一風変わったこけしや、段ボールのスーパーカーで人気を博したのは生粋の地元住人たち。誰の中にもクリエーティビティはあります」。もしかすると、以前はその創造的思考を発揮したくてもできなかった可能性があるのかもしれない。震災後によそ者や若者がやってきて新しいことを始めたことで、「自分たちもやれる」と思えたのでは。それならば、もっと刺激して石巻をかき混ぜ、面白くしてやろう、イノベーションを生み出す人材をたくさん呼んで投資しよう——「そのあたりが巻組の原点ですね」と渡邊さん。

 近年全国で広がりつつある、大量生産・大量消費の社会のあり方を変えるまちづくり。巻組の夢は、石巻をそのトップランナーにすることです。

 さらに渡邊さんは「これから社会に出る人には、生き方の選択肢は無限にあると伝えたい」と話します。漁業しながら絵を描いてもいい、バイトしながら開業資金を貯めるのもいい、人生を切り拓く道は自分で作れるよ、と。就職活動をする際も、決まった方法に縛られる必要はない。そもそも就活サイトに載る企業はほんの数パーセントで、表に見えない会社にも面白い会社はある。「枠の外側に広がる世界に目を向けられるかどうかで、人生は変わるよ」。

さぁ、あなたの未来、どう考える?


事業の方向性を導く「コンパス」、ものづくりをイメージした「まるのこ」、デザインを生み出す「鉛筆」を組み合わせたロゴマーク

※こちらの記事は、2019年11月30日河北新報朝刊に掲載されました。

 

●合同会社 巻組

 2015年設立。宮城県石巻市を拠点に、空き家を活用したシェアハウスなどの運営と人材育成、マッチングを循環させる事業を行う。 https://makigumi.org

撮影 Strobelight 布施 果歩

Posted in FEATURE, 特集 お仕事の極みTagged ,
鶴岡彩
京都生まれ京都育ち。信州・松本で北アルプスを眺めながら数年子育てに専念、2005年から仙台でフリーライター。食、ものづくり、子ども、スポーツ、旅の周辺にいる人へのインタビューが好き。

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BGM of "BGM"

antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。