BGMのオススメ

ビギナーズ・ヴァイナル
今日からあなたもレコード貧乏

レコードにハマりだすとやっぱりビートルズに手を出す。何故ならこれほど世界中で独自プレスされているアーティストは他になく、これほど盤による音の違いが顕著なアーティストもないからだ。聞きなれたあの曲も、レコードで聞くと「アレ?ちょっといつもと違わない?」と思ったらもう…。

Oct 17, 2019   

プレス変われば音変わる。
レコードにハマると人生も変わる!
The Beatles/Please Please Me

  誰もが一度は目にしたことあるビートルズのデビューアルバム「Please Please Me」(PPM)。おそらく一家に一枚くらいのレベルであるのではないかと思うのだが、我が家にはなんとレコードで6枚ある。

 「なんで同じものをこんなに買っちゃったんだろ?」とたまに思う。なにせ、見た目も中身(収録曲)もまったく同じのレコードが複数枚。普通なら同じアルバムを何枚も買わない。でも間違って買っちゃったわけでもなく、欲しくて買ってしまったのだ。なので後悔はしていない。なにせ、レコードはモノによって音が違う。これを知ってしまってから、レコードのもつ魅力、いうならば無限の泥沼地獄にどっぷりとはまり込んでしまった。

 CDでもよく「リミックス盤」「リマスター盤」というのを見かける。特に古い作品だと何かのイベント(例えば発売〇周年だとか来日〇年だとか)に合わせてリニューアル発売される。一昨年であればビートルズの「The Beatles(通称:ホワイト・アルバム)」が、つい先日には「Abbey Road」が発売50周年ということでリミックス再発された。リミックスとは原曲を変化させて新たな解釈にする作業である。ちなみにリマスターは古いマスターテープをデジタル化したり、ノイズを除去したり、楽器ごとの音量の調整を施して当時の制作者の意向が伝わりやすいようにするのが主な役割である。簡単に言うと元の佇まいを残しつつ、現代風に再調整するといえばわかりやすいだろうか。

 今ならばデジタルの発達により、マスターテープの音をソフトにコピーすることはさほど難しくないように思える。それこそ我々がパソコン上でファイルをコピーするイメージである。しかしながらレコード全盛の時代には、このマスターテープの音源を塩化ビニールのレコードに刻み込む、いわゆる「カッティング」と呼ばれる作業は職人の仕事であった。国それぞれにエンジニアと呼ばれるカッティング職人がおり、この人々がマスター音源に収録された音をプロデューサーやアーティストの意向に沿ってマスタリングを施し、塩ビ盤(ラッカーマスター)に刻み込むのだ。レコードの溝に針を落とした時にいかにマスターテープ同様、アーティストの意向のままの音が鳴るようにできるか、これはすべて職人の腕にかかっていたのである。

 ところが、レコードの全盛期はデジタルのない時代である。当然ながら人気アーティストの、本国以外の国での発売となるとレコードソフトの輸出に製造が追いつかない。ビートルズでいえば本国はイギリスであるが、アメリカでも、ドイツでも、そして日本でも需要が生まれると、イギリス国内での生産だけでは供給が追いつかず、各国にマスターテープをダビングしたコピーを送りそれを基にマスタリングおよびカッティングを各国で実施しレコードを製造・販売することとなった(一部ではレコードをプレスするメタルマスター、と呼ばれる、いわゆるレコードをプレスするカタを送る場合もあった)。本国であればプロデューサーやアーティスト本人など、制作意図を理解した人間がほぼ立ち会うが、さすがに各国ごとの作業に立ち会うことは難しい。そこで、マスターテープのダビングを受け取った各国の音楽会社は、本国から送られてきたレコード見本を参考に「おそらくこうであろう」「こういう意図に違いない」という解釈を行い、現地職人の持ちうる技術に基づいてレコードを製造する。それがゆえに、微妙なズレ、というか、音に対する独自解釈が生まれてしまった。レコードによって音が違うのは簡単に言うとこのような経緯なのだ。

 話がだいぶそれてしまった。つまりは同じレコードであっても個体差が著しく顕れる。これがレコードの魅力につながるのだ。ステレオ盤、モノラル盤といった音声出力の違いから、マトリクス(マスター)違い、プレス国違い、などなど、同じアルバムなのに音の聞こえ方が違うものが無数と存在する。それに加えて音とは別の視点ではあるがジャケットデザイン違い(レコード好きの間ではDIFジャケ、と呼ぶ)というものあって、なおさらコレクター魂をくすぐるわけだ。これはなにもビートルズに限ったことではなく、レコードであればどのアーティストでもよくある事象であり、いわんやビートルズほどの世界規模のバンドであればなおさら、である。

 もしこれからレコードを聴き始めようと思われる方がいれば、まずはビートルズのレコードのモノラル盤とステレオ盤を2種類、できれば彼らの出身地であるUKプレス盤を買っていただいて、聴こえ方の違いを堪能してみてほしい。おそらく多くの人が耳馴染んでいるのはステレオ盤。まずはこれをCDと聞き比べてほしい。「あ、これこれ」と曲はもちろん同じなのだが、ちょっとばかりCDとは違って聞こえるはずだ。低音~高音の幅の広さ、ステレオならではの左右の広がり。どうだろう、多少なり違いを感じないだろうか?UK盤とはいえプレス時期によって音の違い=個性がある。特にUK初期のものであれば「あれ、CDよりもなんかいい音じゃない?」なんて顕著に感じられるかもしれない。CDやストリーミングにはない少しだけ暖かみのあるレトロな音質と太めの音圧。「あれ、ビートルズのPPM、こんな音だっけ?」と心地よい違和感を覚えるはずだ。それがすなわち新たな発見であり、レコードの面白さなのだ。

 そしてモノラル盤。これはできるだけ初期プレスの方がいいが値段もはるのでお財布と相談して買えるものを。可能な限り音量を上げて、もしお持ちならモノラル専用カートリッジに交換して、針を落としてみてほしい。1曲目の「I Saw Her Standing There」、この一曲で音の勢いの違いを感じられるはずだ。ステレオの綺麗な分離とクリーンな音とは正反対の、怒涛の音の洪水。ポールのベースがズンズンとお腹に響いてくる。4人のコーラスワークが綺麗に、そしてステレオ盤以上の音圧で折り重なって聞こえてくる。たぶん、テレビや雑誌で見たことのある、スーツにマッシュルームヘアの写真から想像するビートルズの「優等生」的なイメージはガツンと打ち砕かれるはずだ。実はこの人たち、当時としては相当ヘビィな音を奏でるロックンローラーだったのだと認識改めさせられること請け合いである。

 「同じ演奏なのに、同じ曲なのに、プレスでここまで音が変わってしまうのか!」と気づいたら最後、レコ屋巡りの毎日が始まってしまうのだ。 


【今日のうんちく】

レコードの製造

…大まかにいうと以下の製造工程となる。①録音音源データ→②ミックスダウン→③2chのマスターテープ作成→④マスタリング→⑤ラッカー・マスターの製造凹→⑥メタル・マスターの製造凸→⑦メタル・マザーの製造凹→⑧スタンパーの製造凸→⑨レコード

マトリクス

…レコードの製造番号。製造過程⑤のラッカー・マスターに打刻。レコード本体の中心のラベルと音溝の間の平坦な部分(=デッドワックス)部分に記載される。メーカー(レーベル)やアーティストによってさまざまな表記の仕方がある。

モノラル専用針

…レコードには「モノラル盤」と「ステレオ盤」の2種類がある。モノラルはレコードの音溝が一つの音源からカッティングされた盤で、「ステレオ盤」は1本の音溝の左右に2つの音源の音が別々に切られた盤である。レコードを聴くにはそれぞれ専用の針・カートリッジがあり、モノラルを聴くときはモノラル専用が望ましい。(ステレオ針でももちろん聞くことは可能。逆にモノラル針でステレオ盤を聴くと盤自体を痛めることがあるので注意)


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隷好堂 タカヲ
レコードとお酒、競馬を愛するアラフォーのサラリーマン。仙台生まれの仙台育ち。就職で大都会東京へ移住し15年。毎週レコードを求めて都内をさまよい、お目当てを見つけては散財の日々。座右の銘:「盤との出会いは一期一会」。

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BGM of "BGM"

antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。