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映画『アイネクライネナハトムジーク』企画
「ベリーベリーストロングストーリー」Vol.1

 この秋、仙台人にとっては外せない映画が誕生した。大人気ベストセラー作家・伊坂幸太郎原作の映画『アイネクライネナハトムジーク』は、さまざまな〈出会い〉をテーマにした作品で、撮影はすべて仙台で行われた。劇中に登場する仙台のお馴染みの場所や、様々な人とのつながりに、自分の〈出会い〉を重ねる方もいるかもしれない。
 この映画『アイネクライネナハトムジーク』になぞらえて、BGMでは、仙台のあるカップルの〈出会い〉のストーリーをご紹介する。
 初回は、名取の「Coffee & Session PABLO」のオーナー・村上辰大さんと、ヨガインストラクター・大和田早苗さんご夫婦のストーリー。

Nov 4, 2019

「Coffee & Session PABLO」オーナー 村上辰大さん
ヨガインストラクター 大和田早苗さん

――あの時、あの場所で出会ったのが、君で本当によかった。
そう思える〈出会い〉は、人生にいくつあるだろうか。

〈出会って〉いたかもしれない、学生時代

 仙台出身、「Coffee & Session PABLO」のオーナーであり、映像クリエイター。ある時はDJの顔も持つ。穏やかな物腰ではありながら、仕事の話を始めると目つきがぐっと真剣になり、語り口に熱がこもる。村上辰大さんが興味のあることに実直なのは、学生の頃からのようだ。

村上辰大さん(以下、辰大) 子どもの頃からスキーをやっていたので、足腰を鍛えるために自転車に乗りはじめました。高校は仙台高校へ。高校の頃には自転車で東北一周旅をしたりして、どんどん自転車の魅力にハマっていって。
大学は東北工業大学まで毎日自転車で通っていたのですが、当時住んでいたのが柴田町だったので、片道25kmの往復50km。トレーニングをしない代わりに、毎日乗る。通学をトレーニングにする。岩手の自転車の大会南三陸サイクルロード「りくぜんたかた」で表彰台に上がるくらい、本気でストイックにやっていました。

辰大さんが大会に出場した時の様子。辰大さんは青いスポーツウェアを身にまとっている

 辰大さんが真っ赤に日焼けした当時の写真の話をしながら爽やかに笑う早苗さん。早苗さんは岩手県陸前高田市の出身。日々、ヨガで鍛えられたすらりとした体型だ。

大和田早苗さん(以下、早苗) 私は彼のようにはじめから体を鍛えていたわけではなく、どちらかというと病弱で気も弱くて。今は体力もつき、この体形もヨガのおかげです。

ヨガインストラクターとして活躍する早苗さん

 仙台に生まれ、仙台で育った辰大さんと、岩手県陸前高田市で生まれた早苗さん。出会ったのは互いに大人になってからだが、もしかすると、学生の頃に陸前高田市で〈出会って〉いたかもしれない。

早苗 彼が出ていた南三陸サイクルロード「りくぜんたかた」は、地元では道路の交通規制をかけてやるくらい大きな大会。私の実家の近くも走っていたらしいので、もしかするとすれ違っていたかもしれませんね。
 

「友達になったらいいよ、二人、絶対合うよ」

 2013年6月。辰大さんと早苗さんは、仙台のとあるイベントで出会った。

辰大 当時、僕は映像会社を立ち上げたばかり。とあるダンスイベントに撮影クルーとして入っていて、奥さんはそのイベントのお客さんとして来ていました。

早苗 私の勤めているヨガスタジオの先輩に誘われて行きました。当時私は東京から仙台に引っ越してきたばかりで、仙台に友達がいなかったんです。イベントの終わりにその先輩から、「辰くんは顔が広いから、友達になったらいいよ、絶対二人合うよ。」と紹介を受けたのが、最初の出会いです。
とは言っても、彼は撮影の仕事をしている真っ最中だったので、私の印象は全然ないと思いますが……。

辰大 先輩から、「後輩の早苗ちゃん、全然仙台を知らないから、色々連れて行ってあげてね」と託されたので、じゃあ仙台を案内してあげなくちゃなって感じでした。
 

 フットワークが軽く、性別や年齢関係なくフラットに接するお人柄の辰大さん。
 早苗さんの元には、出会った翌日にFacebookでメッセージが届いた。

早苗 出会った次の日に彼から連絡が来たので、「どきっ」として。ちゃんと連絡くれるんだ〜って。すぐ誘ってくれたので、デートの誘いだ! 好意があるのかなって思ってしまいました。

辰大 こっちはシンプルに、仙台にウェルカム! それだけの気持ちだったんだけど(笑)

早苗 その日は、蕎麦を食べて、秋保の滝を見て、最後に家電量販店へ(笑)
引っ越したばかりで掃除機が欲しかった私に付き合ってくれて。そのまま家に送ってもらって終わりだったのですが、私はその1日で彼のことを好きになってしまったんです。

 今まで出会ったことがないタイプの人。
 夢があって、常にわくわくしていて、一緒にいると前向きになれる人。
 早苗さんにとって、辰大さんとの〈出会い〉は、この時既に風向きを変え始めていたようだ。

早苗 私はその時、ネガティブな時期だったんです。仕事は入社して3年目で辛い時期だった時に、彼が現れた。彼を好きになった私は、電話で「好きになっても大丈夫ですか?」と聞きました。
返事は、「困る。友達でいよう。」
デートもして、優しくしてくれたのに、振るんだ、って(笑)

辰大 先輩の一後輩なので、いきなりそう言われても、付き合う気にはなれなかったなぁ。
 

彼が一人になったらダメになる

 それから「友達」としての関係のまま1年が過ぎ、早苗さんの誕生日。
 今度は辰大さんから「友達」の関係を「恋人」へ、一歩進めることになる。

早苗 彼は頭の中の9割を仕事が占めていて、そもそも恋愛する気がない人でした。付き合うまでは「友達」として一緒にご飯を食べたりしていましたが、仕事を優先する人だとわかっていたので、誘われた時だけ連絡を取り、こちらからは連絡を一切しないと決めていました。
それが、ある時から彼からの連絡の頻度が多くなってきたんです。会う頻度が月1から週1になって。彼は私と会っているうちに、だんだんと居心地が良くなってきたんじゃないかな。

辰大 それまでは、一緒に夢を追いかけられるような、やりたいことにまっしぐらなタイプの女性が良いと思っていたんですが、早苗は真逆。僕には全然ないものを持っていて、そこに心地よさを感じるようになっていったんだと思います。その辺りから、自分の気持ちが変わってきたのに気づき始めました。

 献身的、という言葉がこれほどしっくりくる姿もなかなかないだろう。
 早苗さんが辰大さんを支えていく中で、二人の関係はより強くなっていく。

早苗 当時の彼は、会社を立ち上げた一年目で震災に遭い、仕事づめで大変そうでした。夜中の2〜3時に帰宅、徹夜も当たり前。一方で自分は、健康の大切さを伝えるヨガの仕事をしている。ぼろぼろのこの人を目の前にして、自分にできることをしようと思い、肩を揉んだり、ご飯を作ってあげたり……。
直感で、彼が一人になったらダメになる、彼を支えることは私の役目だ、と思っていました。

 早苗さんの前では、弱いところをさらけ出していた辰大さんだが、無論、仕事においての弱音は一切吐かない。「恋人」ではありつつも、「結婚」は考えられなかったという。

辰大 男としてカッコつけたかったんです。仕事が一段落して軌道に乗るまでは結婚は出来ない、と。でもある時、付き合いたての頃も、今も、これから先も、仕事に本気で向き合っている以上、忙しさは変わらないことに気がついた。
先延ばししたところで変わらないなら、今しかない、ここを逃すともうないのかな、と思いました。

 早苗さん自身、30歳を目前に「結婚」を意識した時、それが出来ない辰大さんとの恋には終わりがあることを意識していたという。今年が最後と覚悟していた29歳の誕生日の記念旅行には、予想外の展開が待ち受けていた。

早苗 毎年一緒に訪れている旅行では、実用的な家電をプレゼントしてくれるのがお決まりで、1年目が掃除機、2年目はドライヤーでした。今年も家電かな、と思いきや、彼はスポーツブランドの袋を持ち出して来たんです。今年はヨガウェアかな、なんて思っていた矢先、彼はその袋から小さな箱を取り出し、ひざまずいて指輪を差し出してくれました。
びっくりして号泣し、「はい」としてか言えませんでした。

辰大 「結婚」を決めた理由は、いろんなことが少しずつ積み重なったから。例えば、早苗が喜んでいるとき、自分ごとのように嬉しく思う。さらに、自分にはない時間の感じ方や、ヨガを通して、健康でいるために、自分の心と体に向き合っているところも尊敬しています。

早苗 彼と付き合うのはよっぽど忍耐強くないと無理じゃないですかね。
私、本当にヨガで色々鍛えておいて良かったです(笑)

 奇しくも、お二人がプロポーズの話をしている最中、PABLOの店内の壁一面の巨大スピーカーからは、ジャズトリオManhattan TrinityがカバーしたBoz Scaggsの名曲『We’re All Alone』が音を絞って小さくかけられていた。
 タイトルには、“ここには誰もいない、二人きり”とロマンチックな意味と、“みんなひとり”という意味がある。早苗さんの言葉を借りれば、辰大さんが1人になってはダメなように、早苗さんにとってもなくてはならない存在の辰大さん。1人ではなく2人で、「夫婦」として歩みを進めている。
 

雷が落ちた、PABLOとの〈出会い〉

 話は、「Coffee & Session PABLO」に移る。
辰大さんがこのお店と運命的な〈出会い〉をしたのは、早苗さんと出会って2年が経った2015年。

辰大 2014年に、アメリカのシアトルやサンフランシスコを2週間かけてじっくり周ったのですが、その時に出会ったサンフランシスコのカフェは、1階がお店で、2階が事務所になっていて、そのオープンな雰囲気に衝撃を受けました。元々、カフェをやりたいとは思っていたんですが、映像の仕事が落ち着いて、40〜50歳くらいになったらかな、と思っていました。
そんな時、事務所の入っているビルで雑貨店を開いていたクリエイターの由紀ちゃん(現PABLO店長)にそのカフェの話をしたところ、「私そういう場所知ってる」と言うんです。それがPABLOでした。
お店の素晴らしさはもちろんですが、決め手は何より元オーナーさんとの共通点です。スチールカメラマンで、大の自転車好き、そしてレコードが好き。一方俺は、映像を作っていて、自転車も好きで、DJをやっている。もう、俺じゃんって。会社も立ち上げたばかりだし、その上でカフェもはじめたら忙しさは尋常じゃなくなる。でも、雷がどんと落ちた。ここだと思った運命に引き寄せられた感じでした。

前オーナーの自転車は、PABLOのスピーカーの前に鎮座している

 辰大さんとPABLOのこの運命的な〈出会い〉を、早苗さんはどう受け止めていたのだろうか。

早苗 お店の話はすぐにしてくれました。仕事の話は普段からよくしてくれますが、PABLOの話をするときは特に熱がこもっていましたね。
彼は、仕事としてやっていないというか、自分の生きる道として楽しんでやっている。私もそんな考えにすごく刺激を受けるので、いろいろ相談してくれることが嬉しいです。

 インタビューの最中、今年、お二人が新婚旅行で訪れたハワイのコーヒー「コナコーヒー」を頂いた。「コーヒー農園を見てきたんですが、豆は無農薬栽培で全て手摘みなんです。コナコーヒーらしいすっきりとした味ですよね。」と辰大さん。

無農薬のコナコーヒーを栽培する農園を実際に訪れたお二人。豆を見る辰大さんの目は真剣そのもの

 夫婦水入らずの旅行時間にも仕事のことを考えている辰大さんを、半ば呆れながらも笑って見守る早苗さん。辰大さんには、仕事とプライベートの境界線が無いのかもしれない。

辰大 僕は興味がある事にはとにかく一直線です。一方で、お店のコーヒーに関することは由紀ちゃんが責任をもってやってくれている。でも、お店で出すコーヒーやメニューは、スタッフみんなで検討しているから、PABLOはスタッフ皆で創りあげているんです。
 

人とカルチャーのセッション、PABLOの今

 元オーナーがやりたいことを体現していた「Jazz in パブロ」が、「Coffee & Session PABLO」として再スタートしてもうすぐ2年が経とうとしている。
ジャンルを超えた音楽の共演(セッション)、同じ趣味嗜好を持つ人たちの集い(セッション)、PABLOの空間と人・カルチャーのセッション、この新たなコンセプトは、様々なつながりを生んでいる。早苗さんも、その体現者の一人だ。

早苗 PABLOがオープンする前の朝の時間帯に、お店でヨガのレッスンを行っています。PABLOを知らなかったひとが、私のレッスンへの参加をきっかけにPABLOに来てくれて、この場所をすごく気に入ってくれています。レッスンが終わったら一緒に片付けをして、おいしいコーヒーを飲むんですが、この時間がすごく特別で。彼が一生懸命作り上げて来たこの空間に、私が、自分のできることで新しいお客さんを呼べることも嬉しいし、一緒に空間づくりができているのがすごく嬉しいです。

毎回キャンセル待ちが出る、PABLOでの早苗さんのヨガ教室

辰大 お互い得意分野をね。自分の作った場所で、やりたい事をお互いやれている。ゼロから1をつくるのがすごく面白いですね。

「Coffee & Session PABLO」がオープンして二週間後。辰大さんの誕生日に籍を入れたお二人。そして今年の結婚式では、これまでのお二人を作ってくれた〈出会い〉が集結した。

辰大 ダンス・スキー仲間、DJをはじめるきっかけをつくってくれた先輩、PABLOのメンバー、そして仲のいい大切な友人と家族とのの空間でした。

早苗 ずーっと笑っていたよね。

 早苗さんと会話をしている時の辰大さんは、とても柔らかな表情だ。
仕事に熱中する姿勢は相変わらずだが、最近は二人でゆっくり過ごす時間もできてきたという早苗さん。

早苗 この人、バレンタインデーとかクリスマスとか、カップルのイベントを知らないんですよ。

辰大 いや、知ってるよ!(笑)

早苗 イベントごとをカップルで祝う、ということをしないって事。仕事の納期最優先!
だから付き合いたての頃は「今日はクリスマスなので一緒にケーキを食べます」みたいに、私が教育していました。
私と一緒になって、やっと休むことの大切さをわかってくれました。
ただ一緒にコーヒーを飲んでるだけで、すごく幸せそうな顔をするんですよ。

辰大 徹夜して働いていた頃と比べて、だいぶ表情も心も柔らかくなったかな(笑)

――あの時、あの場所で出会ったのが、君で本当によかった。
辰大さんと早苗さんにとって、この〈出会い〉はどんなものだっただろうか。

辰大 自分の人生に足りないものを補ってくれたのが、彼女との出会いでした。僕の人生に不可欠なで存在です。
早苗 出会えてよかったね。


 
●辰大さんと早苗さんの「小さな夜の音楽」は?
『ゆれる』/ EVISBEATS
『Sit At The Piano』/ Kan Sano

早苗 『ゆれる』は初めて一緒に出かけた頃から、よく車でかけてくれていました。

辰大 自分の好きな曲を共感してくれるのが嬉しかったです。

 実は『ゆれる』が入っているアルバムタイトルが『ひとつになるとき』で、結婚をするきっかけをくれたものの一つです。

早苗 KAN SANOさんも彼のお陰で出会えた曲。私たち、音楽の趣味の一番大好きな部分ががっちり合うんです。

 
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COFFEE & SESSION PABLO

住所   宮城県名取市下余田中荷630−8 電話番号 022-398-5442 営業時間 11:00-19:00 定休日  月曜 Instagram @Coffee&Session PABLO

  

アイネクライネナハトムジーク


  
■STORY
 仙台駅前。大型ビジョンには、日本人のボクシング世界王座をかけたタイトルマッチに沸く人々。そんな中、この時代に街頭アンケートに立つ会社員・佐藤の耳に、ふとギターの弾き語りが響く。歌に聴き入る紗季と目が合い思わず声をかけると、快くアンケートに応えてくれた。二人の小さな出会いは、妻と娘に出て行かれ途方にくれる佐藤の上司や、分不相応な美人妻と可愛い娘を持つ佐藤の親友、その娘の同級生家族、美人妻の友人で声しか知らない男に恋する美容師らを巻き込み、10年の時をかけて奇跡のような瞬間を呼び起こす――。
(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
 
■配給
ギャガ

■監督
今泉力哉

■音楽
斉藤和義

■出演
三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造

■公式サイト
https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/

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BGM of "BGM"

antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。