1分コラム

アラバキ儚い 二日の夢

角田哲哉の「音と暮らしと雑文と」第5回。今回は、ゴールデンウィークに行われた『ARABAKI ROCK FEST.19』の魅力についての徒然。

May 28, 2019   

 天幕を透過して瞼割り、捻じ込んでくる光に「なるほどもう朝か」と独り言ちては、やおら起き上がり、のこのこと狭い出入口を這い出、空を仰げば、そぼ降っていた前日の雨など無かったかのように突き抜けて快晴。
 『ARABAKI ROCK FEST.19』 二日目の朝。私は今年も会場にてテント泊、すなわちキャンプをしていたのだった。

 仮の庵を出て身支度を整え朝飯にありつこうと、場内の一角に設けられた屋台で、白飯と漬物、紙コップに入ったあさり汁、加えて麦を発酵させて作った炭酸の強い飲料を買い求め、草っ原の真ん中、これまた親切に用意されているプラスチック製のガーデンチェアーに腰を下ろし飯を掻き込み汁を啜る。
 人心地ついてふと見やれば、今しがた後にしてきたテント村の向こうに残雪を被った蔵王連峰が紺碧の春空を背に横たわり、遠くうぐいす、空にはとび。その下に若緑の木々が生い茂り……これ、正に極楽。
 朝っぱらからグビグビと麦酒を流し込みながら「世の中に フェスより楽しはなかりけり 浮世の○○は起きて働く」などとどこかで聞いたことのあるような句を心中でひねっては、二たび三たびと、浮世を忘れたテイでプラスチック製のカップに入った液体を飲み干すのであった。

そう“浮世離れ”――
近年、自然のフィールドを舞台に開催される大型のフェスティバルの魅力を一言でいうなら“浮世離れ”なのである。
音楽のフェスであるから、潤沢な音楽に包まれている喜び。
一日二日……一週間でも堪能しきれないほどのメニューに溢れた出店屋台は津々浦々から。
オーガニックの素材で出来た衣類や民族雑貨、アウトドアグッズも揃うマーケット。
 スラックラインやジャグリング、中国ゴマで楽し気に遊ぶ子どもたち。そして、集った客のほとんどが期待と興奮、笑顔と感動に溢れ、嬉々として彼等が歌い踊る環境は、雄大な自然……とにかく多幸感! こんな素敵なシャングリラが世知辛い現代社会にあっていいのかしら!? 無論、いい!
 まさしく日常とは一線も二線も画した、だが確かに身近(地元)にある世界。言い方を変えれば、現代人にとってネガティヴな要素を一時でも忘れるための“フェスという逃げ場”……混沌としながらも得体の知れないエネルギーに魅かれて人々はフェスティバルへと赴くのであろう。

 絶大な力に人は惹きつけられるが、儚いものにもまた魅力を覚えるもの。
 ARABAKI ROCK FEST.は二日間。
 会場に舞い散る桜花花弁(かべん)のそれのように、あっという間に二日間の魔法は消え、人々はまた現実へと帰って行く。
だが、儚い二日の夢だからこそ、訪れた人々が持ち寄った“一年をかけて濃縮された”様々な想いやそれぞれの喜怒哀楽が、凝縮された時間の中で弾け、渦を巻き、舞い上がり、昇華し、フェスティバル全体のエネルギーとなって次回へと繋がってゆくのである。

ただ春の夜の夢の如し。
だが、夢はつづく。

 

pagetop

BGM of "BGM"

antennasiasan (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。現在(2018年)まで、国内外のレーベルから、8枚のオリジナル・アルバム、3枚のリミックス・アルバムを発表。