BGMのオススメ

農業とファッションでカワイイ、オモシロイを発信する
夫婦のワークスタイル

宮城県南部、豊かな自然に囲まれた角田市で米農家を営むお米クリエイター佐藤裕貴(さとうゆうき)さんと、オリジナルファッションブランド『bavard-cadeau(ババ―ルカドー)』を手がける佐藤菜美(さとうなみ)さん夫妻。一見異色な組み合わせのように思えるけれど、独自の世界観でフードカルチャーとファッションを発信する2人です。知れば知るほど目が離せなくなる、魅力的な夫婦の「カタチ」をご紹介します。

Sep 29, 2018     

東京からUターン。農業で角田を元気にしたい

角田市中心部から車で10分ほどにある小田地区は良質な米が採れる、市内有数の米どころで田畑に心血を注ぐ佐藤裕貴さんは米農家の6代目。もともとは学校卒業後に上京して輸入雑貨店やアパレルショップなどに勤務した後、独立してアンティーク・ヴィンテージ雑貨のバイヤーをしていた、ちょっとユニークな経歴の持ち主です。
 
「学生時代から服やインテリアなどの雑誌を読みあさっていたので、情報やモノが集まる東京は憧れの地。昔から好きだった雑貨や服に囲まれながら、東京にいた約10年間の間に店舗運営から買い付け、商品企画、流通などを学ぶことができました。」
 
と振り返ります。
 
 

 
 

裕貴さんがバイヤー時代に集めていたコレクション。
年代はさまざまながら、裕貴さんの審美眼でセレクトされた人形やポスター、玩具などキャッチーなものが多い

 
 
末っ子長男でもあったため、祖母の死をきっかけに、2009年に両親が残る角田市の実家へUターン。地元に帰った直後は雑貨の販売も続けていましたが、活気が薄れている地元の現状や震災を契機に感じた食の大切さに気づき、一念発起して農業一本に。
 
「田植えや稲刈り程度の手伝いはしていましたが、それ以外の仕事はまったくやったことがなかったので日々勉強でした。そんな中でも、今までの経験も活かせるよう衣・食・農のトータルコーディネートで、かっこよくて魅力的な農業を提案する団体『一般社団法人 OLD-DOWN OVERALLS(オールドダウンオーバーオールズ)』を設立。あぜ道でファッションショーや音楽祭、アーティストとコラボレーションした農業体験など若い人たちも集まれるようなイベントを開催することで、
角田の農業の魅力を発信し、人との交流で地域が活気づいてくれればと思って活動しています。」
 
 

2018年に開催したイベントは角田の象徴・宇宙がテーマ。アーティストがペイントした惑星で飾った田んぼでDJがエレクトロニカを流す中田植えを行った

 
 
農業はもちろんのこと、飲食店や酒造会社など異業種の人たちとも積極的に交友してきた裕貴さん。そんな人とのつながりの中で生まれた一つが「乾坤一」で知られる村田町の「大沼酒造」とのコラボレーション。地元で採れた米にこだわり、仕込み量が少ない丁寧な醸(かも)しで知られる蔵元の酒造りのための米を裕貴さんが手掛けています。
 
「大沼酒造の大沼さんとは食のイベントで出会って意気投合。ササニシキの親品種(おやひんしゅ)であるササシグレからはじまり、次は今秋に収穫する神力(しんりき)という品種を育てています。うちの田んぼがある小田地区は文字通り、昔ながらの小さな田んぼが連なる地域で、大規模農業には向かないと言われていたのですが、小さい分必要な品種を必要な量だけを割り振って育てることができます。大沼さんとの仕事は小田地区の田んぼのデメリットがメリットに変わった出会いでした。」
 
と感慨深げ。
小回りがきく田んぼの良さを生かし、現在はササニシキやひとめぼれ、つや姫などのメジャー品種や古代米、イタリアのリゾット米など、なんと料理人やお客様からの需要に合わせて19品種を栽培。無農薬や有機、減農薬などさまざまな栽培方法にも取り組んでいます。かっこよく、でも真面目に。裕貴さんだからできる農業のスタイルでムーブメントを起こしつづけています。
 
 

ワクワクするような服作りは東京にいなくてもできる


 
 
「私のファッションリーダーはおばあちゃん。さらっと『イヴ・サンローラン』を着こなしちゃうような、すごくおしゃれな人で、服を買ってくれる時は、ブランド物の子供服のお店に連れていかれて『好きなのを選びなさい』って言われて自分で選ばせてくれていたんです。他にも買った洋服を自分で染めたりとか……おしゃれへの目覚めはかなり早かったです。」
とのっけからファッションへの愛を語ってくれたのはオリジナルブランド「bavard-cadeau」を手がける佐藤菜美さん。
 
 

 

 

 

 

 

 
 
古着のTシャツやジャケット、スカートなどをベースに、アンティークのレースやリボン、可愛らしいテキスタイルなどをデコラティブに配した菜美さんの洋服はどれも一点もの。基本的にスケッチやパターンはひかず、作る時の気持ちや感覚を大切にしながら一着一着丁寧に仕上げています。ちょっと刺激的で甘過ぎないバランスがなんとも絶妙で、東京都内のセレクトショップなどに納品した途端、即完売してしまうほどの人気。
 
 

自宅2階の一室が2人の仕事場。
窓の外には裕貴さんの田んぼが広がっている

 
広島の服飾専門学校卒業後は上京して企画から生産まで学べる東京都内の会社に就職。
 
「東京で就職すれば自分でオリジナルの服を作れる! と意気込んで会社に入ったものの、実際に作るものは既に市場に出ているような流行りのものばかり。トレンドを追い求めるということにジレンマを感じていた。」
 
という菜美さん。本業の傍らで展示会やイベントなどに赴いて人脈を作りながら、自分の制作活動にも力を注いでいたのだそう。
 
 

 
 
会社員時代から付き合っていた裕貴さんとの結婚を機に、東京から角田市へ移住。
 
「家の周りには一面の田んぼ。『何もないな』って思ったと同時に、新鮮で、落ち着くなって思いました。宇宙に興味があったのでJAXAやロケットがあることがちょっと嬉しかったり(笑)。東京は情報や物であふれかえっているので、それが作りたい服への感覚を邪魔してしまうこともあります。その点で偏らず、何気ない変化を感じることができたり、物事をフラットに見ることができる環境なのかなと思っています。」
 
 

 

裕貴さんが企画・コーディネートした
丸森町の餅のイベントのスタッフ用に菜美さんが制作したベスト。
使用済みの米の袋を裁断し、仕立てている

 
菜美さん曰く裕貴さんは
 
「私が思うかわいいって感覚をこんなにも理解してくれる男性は他にいない」
 
と絶対的な信頼を置くパートナー。価格決定などの相談事にも乗ってくれる良き理解者なのだそう。一方で裕貴さんも自身が手掛けるイベントの装飾や衣装などで協力を仰ぐなど、仕事の上でも良好な相互関係を作っています。
 
「自分が携わったイベントのスタッフ用衣装として、(菜美さんに)米袋を使った法被を仕立ててもらったらすごく盛り上がりました(笑)。自分自身、もともと服が好きということもあるんですが、イベントにファッションという要素が入ると、すごく気持ちが盛り上がるんですよ。自分たちが楽しいと思ってやらなきゃ参加する人たちも楽しめないですよね。」
 
と裕貴さん。
 
「アパレルをやっている人が飲食店をオープンするなど、ファッション好きな人の中には食にも意識が高い人が多いなと思うんです。2人それぞれの仕事がリンクできる部分があるのはうれしいし、楽しい。たまに無茶ぶりしたり、されたりもあるけどね(笑)。」
 
 

2人の作ったものが角田から世界へ、宇宙へ!

じわりじわりと人気を集めている「bavard-cadeau」は人気女性お笑い芸人・森三中が衣装として着用している他、東京のセレクトショップに卸していた商品がバイヤーの目に留まり、台湾や中国のショップと直接取引するように。
 
「Instagramのフォロワーさんはアジア、アメリカ、ヨーロッパなど世界各国。問い合わせはものすごい量です。」
 
と語るように菜美さんならではの唯一無二のジャパニーズ・ポップスタイルへの熱視線は世界にも広がっています。
 
一方の裕貴さんの目線は宇宙へ!? 
 
「「角田の米のブランディングを目的に、角田市内で様々な地域活性事業に尽力している株式会社森砂利店の森社長と一緒に計画した角田産の米を宇宙に飛ばすプロジェクトが進行中です。2019年春に角田市に道の駅が開業する予定なので、宇宙を旅した米が角田を元気にする話題作りになってくれればと思っています。宇宙米自体も自分だけが独占して作るのではなく、種もみを増やしていって市内の色んな農家さんが作ってくれるようになったら、面白いですよね」
 
と裕貴さん。ロケットの打ち上げは今冬の予定。続報が気になるところです。
 
 

オモシロイを広げるさらなるもくろみ

2人の目下の夢は自宅の隣にギャラリーを作ること。
 
「菜美さんの作品を展示したり、自分が育てた農作物を販売したり、ワークショップを開催したり、地元の子どもたちが気軽に立ち寄れるスペースだったり……『これ!』という使い方を限定しない、自由な空間を作りたいと思っています。今まで出会ってきたクリエーターの中には料理人もいるので、地元の食材で料理を作ってもらって、それをみんなで味わうイベントもやってみたいんです」
 
と裕貴さんは語ります。
 
 

 
 
「ブランドの商品を直接見たいっていう人や裕貴君のお米を本人から直接買いたいっていう人がとても多いので、形にできたらなと思います。あ、あと個人的にもう一つ!これは展示会などで海外に行くようになってから持ち始めた夢なんですけど、1着に、いろんな土地で買い集めた素材を組み合わせて、世界に一つだけの民族衣装を作りたいなって思っています。それを黒柳徹子さんに持っていきたいなって。黒柳さんは民族衣装コレクターなので、そのコレクションも見てみたいし、勝手に気が合うと思ってるんですよね(笑)それが今の夢です。」
 
と少女のように目を輝かせて熱っぽく語る菜美さん。それを聞きながら隣りで優しく微笑み、時折突っ込みを入れる裕貴さん。互いのやりたいことを理解して応援し合う同志のような夫婦の「カタチ」に、憧れの念を抱かずにはいられませんでした。
 
 

 
 

Old-Down Overalls (オールドダウンオーバーオールズ)

  お米クリエイター佐藤裕貴 Mail rice.y.sato@gmail.com Facebook  

bavard-cadeau (ババールカドー)

  Instagram

 
撮影 小野寺真希
 

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小原 瞳
仙台生まれ、仙台育ちのフリーライター・コーディネーター。人の手から生まれる道具や玩具、それを生み出す作り手に惹かれ、さまざまな工房を訪ねる日々。地元にあるいいもの、おいしいものをもっと発掘すべく、県内のあちこちに出没しています。

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antennasia san (vocal) とNerve (track) により1999年に結成。ブリストル・サウンド、ダブなどをルーツとする。アルバムごとに音楽性の幅を広げつつ、一貫して、sanのヴォーカルを軸としたトリッピーなサウンド/ベース・ミュージックを追求している。soundcloud